人気ブログランキング | 話題のタグを見る


歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

サウスゲートとウィンドシャトル

 夜中に帰国して、さっそく次の日は平常試験の監督。といっても他人の仕事の手伝い。それと報告書の書類書きと今日で締め切りの今年度の通常予算の最後の処理に終われました。明日、明後日は卒論の口頭試問の最後の準備となります。たまたま大学であったネイティヴの人に口頭試問には英語でどういう言い方があるかと聞いたら、oral defense という言い方があると言っていました。あまり攻撃をかける意志もないのですが。
 ということで本を読めたのは帰りの飛行場と飛行機の中。本は行きに読んだものしかもって行かなかったので、帰りの前の日にサンフランシスコで本屋に行きました。Borderという名前、いい名前ですね。歴史理論で何かないかなと思って探したら、あったのはPlumbと、それからKeith Windschuttle,The Killing of History (1997), とBeverley Southgate, History meets Fiction(2009)、ウィンドシャトルが一般書店に置いてあるのがさすがにアメリカだなと妙に感心しました(アメリカではヒメルファーブもよく見かけます)。実は前の2冊はもっていて、またウィンドシャトルは2000年にIHRに行った時に読んでかなり詳しいノートをとってあるのですが、本が買えなかったのでコピーしてもって帰っています。ということで、ウィンドシャトルと、それから待合室と機内用にサウスゲートを買いました。例によって40頁くらいを読んでみました。
 サウスゲートは2000年のIHRのセミナーの時にほぼ常連に近いメンバーでしたので、よく会いました。元々は思想史、キリスト教神学者を研究していた人で、一言で言えば温厚で実直な人です。あまり目立つような議論をしようとするタイプではなく、多分そうだろうと思ってネットでチェックしてみましたが、広島大学で2003年くらいに卒論で取り上げられたことがあるくらいで日本ではまったくといってよいほど紹介されていないようです(そう考えると、学部の卒論でサウスゲート論を書いたというのはすごいですね)。ハートフォードシャー大学に勤めていましたが、2000年の時も早めにリタイアしたいといっていましたが、そのあと少しジェンキンズに呼ばれてチチェスターで仕事をし、リタイアしたようです。それを前後とする時期から、History-What and Why(1996), Why Bother with History(2000), What is History For(2005) というきわめてシンプルな題名の本を出していて、その題名のせいもあってか、イギリスではペーパーバックが本屋によく置かれている人物です。しかし、正直な評価をすると内容的にはいまひとつというところがあります。本人の誠実さや公平な評価としようという姿勢はわかりますが、立場性とか主張の要点がなかなか見えてこない。今度の著作も歴史とフィクションの区別が現代においては曖昧化したということが実例を媒介として指摘されていますが、その意味についての本人の積極的な考えをもう少し鮮明にしたほうがよいのではという部分があります。またテーマが大きい割には、思想史的な素養はきちんとあるのでしょうが、思想的な理解の広がりや深さが弱いような気がします。おそらくそれが日本では取り上げられない理由なのだと思います。新しい本についても、文献的に不足するところがあります。たとえばかなり大きな議論をしている割に、Manifestoes for Historyに収められたものに頼っている部分も目立ち、個々の論者の本をそれぞれについてもう少し読むべきではという部分があるようです。
 ウィンドシャトルは「エヴァンズは紹介されても、さすがにウィンドシャトルは・・・」と以前書いたと思いますが、欧米では比較的文献紹介にあげられているのに、ネットを見ると日本ではやはり紹介は少なく、藤川隆男さんなどの二、三のものだけのようです。もっとも藤川さんが紹介しているのは、彼がデニングの論争相手であったためだからでしょう。あえていえば保守的な歴史修正主義に通じる議論をしている人でメディア的にも活躍している人物です。時間もたちましたが、これから日本で紹介される場合は、フランシス・フクヤマの紹介のされ方と似たようなかたちをとるかもしれません。ただKillingについていえば、フーコーや記号論、脱構築論、(ポスト)構造主義、人類学的視点についての理解力はエヴァンズより高い部分があって、その分面白く読める部分もあります。ウィンドシャトルについては Capitalist Magazine(2003.1)に掲載されたHistory, Truth and Postmodernism という文章をネットで見ることができます。
 
by pastandhistories | 2011-01-31 23:09 | Trackback | Comments(0)

カテゴリ

全体
未分類

以前の記事

2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 11月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 07月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 10月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 01月

フォロー中のブログ

最新のコメント

恐れ入ります。いつも勉強..
by とくはら at 14:37
『思想』の3月号ですか。..
by 川島祐一 at 23:39
先生は、「「民主主義」擁..
by 伊豆川 at 19:57
先生は、「歴史が科学であ..
by 伊豆川 at 17:18
セミナーで配布・訳読され..
by 伊豆川 at 14:44
私も今回のセミナーに参加..
by 伊豆川 at 18:55

メモ帳

最新のトラックバック

ライフログ

検索

タグ

その他のジャンル

ブログパーツ

最新の記事

ディジトリー
at 2024-03-28 15:45
アームチェアー「パブリックヒ..
at 2024-03-17 21:04
MFSC
at 2024-03-11 10:43
何を問うのか
at 2024-03-01 10:45
待ってろ、辰史
at 2024-02-27 08:46

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧