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歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

トラウマ的記憶

 本来は昨日書かなければならなかったのですが、19日のプロジェクトの内容について、世界史研究会の運営ブログで紹介をしてくれました。本当に丁寧な紹介でそれぞれの内容がよくわかり感謝しています。それをご覧いただくとわかりますが、参加者はそれほど多くはありませんが、それぞれの発表は問題意識が鮮明な意欲的なもので、またそのオリジナリティについては高く評価してよいものでした。この企画は立ててよかったと思います。次は12月10日となります。
 こちらのブログのほうは、多少パーソナルナラティヴを書き始めました。昨日の最後の部分については、自分ではかなりそれを話したり、書いたりすることに随分と迷いのある事柄です。自分が最終講義のようなことを行うのならその時話すかもしれないと思っていたのですが、やはりその時も話さないかもしれません。そうした気持ちがこの問題に関してはあります。
 ということで、今日は少し異なる話を記します。それは自分にあるトラウマの話です。最近また話題の人物となった元巨人の江川投手も同じだという話を聞いたことがありますが、自分は大学に入るまで鶏肉を食べませんでした。文字通り鳥肌が立ってしまうからです。その理由は真砂町の家では鶏を飼っていたからです。もちろん食用と鶏卵のためなのですが、東京のど真ん中でも戦争直後は庭に鶏小屋のある家がありました。庭にあったのは、防空壕だけではありません。
 この鶏小屋に関して記憶にあることの一つは、東京で日食があった時、その終了にしたがって真昼間に鶏が一斉に鳴き声を上げたことです。確認してみたら1950年の9月、欠食の割合は最高で38%だったそうです。それでもいったん周囲がだいぶ暗くなって、それから再び明るくなりだしたので、鶏が勘違いしたのでしょう。自分は5歳でまだ日食などということを知識としては知らなかったはずですが、「昼間なのに暗くなった」ということと、「鶏が鳴いた」ということへの記憶がなんとなくあります。
 しかし、自分が鶏肉をずっと食べなかったことの原因、もちろんそれはいわゆる「鶏の首を絞める(切断する)」という行為を見たからなのだと思いますが、その記憶は全くありません。後年映画などでそうした場面をみて、おそらく自分が見たのはそうした光景なのだろうということはほぼ想像できますが、記憶が全くありません。にもかかわらず大学に入るまでは鶏肉を受け付けることは一切ありませんでした。いわゆるトラウマだったのでしょう。これには後日談があって、大学院に入ってからゼミの後の飲み会で焼き鳥を食べている時に、「焼き鳥の原料はスズメのような小鳥なのだろうけど、どうやって飼育しているのだろうか」と知人に質問して、誰でもが知っている高名な歴史研究者であるその知人を本当にびっくりさせたことがあります。形状からずっとそう思っていたわけです。それほど鶏肉に関しては自分は無知であったということです。
 今日こうしたことは書いたのは、自分が関与したことに関しても、確実に記憶されないこと、あるいは想起されない記憶があるということです(ただし精神的にはであって、身体的には記憶されていて自分の行動を制御しているわけです)。自分にとってはそれは他人が行った「鶏の首を絞める」という行為だったわけですが、このことは自らが行った行為についても確実にいえることです。
 たとえば殺人です。人間がそうした行為をきちんと記憶できるかは本当は疑問です。いつも思うことですが殺人というきわめて緊張を強いられる行為を人間はどれだけ正確に記憶できるのでしょうか。多くの死刑囚が無実を主張するのは、おそらく自分が行ったとされる行為へ(正確な)記憶がないためかもしれません。過度な緊張を強いられた行為はけっして正確には記憶されることはないということは、ホロコーストに伴う事例にかぎらず、大岡昇平の『野火』をはじめ多くの文学作品のなかでずっと論じられてきたことです。
by pastandhistories | 2011-11-21 22:28 | Trackback | Comments(0)

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