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記憶の絶対性

 ジョージ・オーウェルが作品のテーマの一つとしたことは、「自分が個人的に確実に経験した」ことの「記憶」が、全体主義的な社会の中で異なるものとされる、さらには忘却を強いられるということへの批判です。『カタロニア讃歌』の執筆の動機も、自分の現地での直接見聞したことが、ロンドンでは異なったものとして報道されていることへの怒りでした。そうした怒りは、『動物農場』でも『1984年』でも、個人が絶対的なものとして保持しているはずの記憶でさえもが、権力によって改鼠を強いられ、曖昧なものとされていくことへの怒りとして、さらには絶望として表現されました。
 後数日で3月11日、そしてそれにつづいて福島第一発電所の1号機から4号機のすべてに爆発が起きてから一年となります。しかし、いまだに爆発の光景が一切報道されない4号機はともかくとして、あれほど巨大な爆発であった3号機の報道も、この1週間の間にきちんと報道されなおすかというと、おそらくは行われないだろうとする予想の方が当たりそうな気がします。記憶を作り出させないため、さらには確実な記憶を忘却へと追いやるためです。
 そういう社会に自分たちは今生きています。しかし、絶望を感じながらもオーウェルが作品をとおして表現しようとしたことは、それでも記憶は絶対的なものとして個々の中に存在し続けうるかもしれないということです。この一週間は、公式の歴史として構築されていく事柄にたいして、自らの記憶の絶対性を対置していく一週間であるような気がします。
by pastandhistories | 2012-03-08 22:49 | Trackback | Comments(1)
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Commented by 伊豆川 at 2012-03-10 17:10 x
先生の議論には、大筋で同意します。ですが、人間は、単独で自分の記憶の絶対性・固有性を把握することは困難ではないでしょうか。社会化・集合化された記憶を学び、社会化・集合化された記憶に還元しきれない自分の記憶を見出すことによって、人間は自分の記憶の絶対性・固有性を把握すると、私は考えます。

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