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グローバリゼーションとナショナリズム

 水曜日は授業が1時限目。教室が不足して誰かが1時限目をしなければならないので、そうなります。火曜日は大学院の授業が夜、これも実際にはそうしたことは少ないのですが、社会人や他大学からの聴講生のためにそうなっています。どうしても帰宅が夜の9時すぎ。それから食事と風呂ということなので、日のよってはそのままバタン・キュー。早く寝すぎると翌朝朝早くに起きてしまうことがある。今日も随分と早く起きてしまいました。
 ということでその時間を利用して記事を書こうと思っていたら、昔書いた文章が目に入りました。今日はその文章を紹介します。それは、
「しかし、実際にはこうした主張は伝統的なナショナリスティックな議論をむしかえしたものである、と私は考えている。こうした主張のなかに垣間見えるものは、「日本は」という枕言葉である。そこではグローバリズムへの同化の必要は、「日本」というナショナルな単位を前提として語られている。個は直接世界と結びつくものとしては語られず、国家を仲介者として世界に関係させられている。グローバリズムという言葉は、ナショナルな単位に人々を統合するための便宜的なものとしてもちいられている場合が多い。グローバリズムはナショナリズムを別の言葉で言いかえたものでしかない。
 歴史を冷静に考察するならば、こうしたグローバライゼイションとナショナリズムの結合はけっして特異なものではなく、むしろありふれた現象であったといえる。それがいつ頃から始まったかについてはなお多くの議論の余地があるが、ヨーロッパの世界進出と、近代国民国家の形成はほぼパラレルなものであった。その意味では近代以降の世界にあってはグローバリズムとナショナリズムはむしろ結合することのほうが自然であった。アダム・スミスの著作が『国富論』と訳されているように、自由貿易論は、国民経済確立の原理でもあった。人類の普遍的進歩という言葉は、ヨーロッパの国家がアジア、アフリカに進出していくさいの道具として使用された。国家は、国際正義、国際的秩序、国際的連帯、といった言葉を、国民を戦争に駆り立てる手段としてもっともよく使用した。有名な言葉をもじれば、愛国心ではなく「グローバリズムが悪党の最後のよりどころ」であったのである。
 このように。グローバリズムとナショナリズムとは意外なほど歴史的には結びついてきたものである。しかし、それは意味内容としては本来は対立しあうものである。そこには矛盾がある。その矛盾をとくためには、どうしても論理的なトリックが必要になる。ナショナリズムの根拠となるネイションがバイアスをもたない社会であるという論理が多くの社会で採用されてきたのはこのためなのだろう。近代ヨーロッパが、とくに19世紀以降の自らの社会と文化を、普遍的な価値のあるものとして語ったのはそのためであった。また現在の日本の社会で、その社会がバイアスをもっていないということの意識的よりどころとなっているものが、グローバライゼーションの担い手であった近代ヨーロッパに自らを同化しおえたという意識、つまり明治維新以降の日本のナショナルなあり方をささえた脱亜入欧という意識の延長にあることを否定することは難しい。
 以上のように、私たちがグローバルなものであると思いがちなものは、実際にはナショナルな視点に支えられている。端的にいえばグローバリズムというものは現実には、自らを「世界」であると称したネーションが、その世界のなかに、国民ならびに「旧世界」の人々を統合していくためにもちいた、そしてまたもちいているイデオロギーという面を抜きがたくもっている。
・・・しかし、そのことをふまえたうえで次に議論すべきことは、グローバライゼーションが、歴史的には、あるいは現実にも、ナショナリズムと深く結合したものである一方で、他方ではその媒体であったネーションを超越し、解体するといった要素を本質的には内包しており、そのことがグローバリズムのもっともおおきな思想的根拠となっていることだろう・・・・」(『国境のない時代の歴史』1993年、139~142頁)
というものです。
 出版に時間がかかって、原稿が完成していたのは1991年頃。実際には以前の大学にいた時の講義をもとにしたものなので、構想自体はソ連が崩壊する以前に既にまとめられていたものです。自分にはいくつかのモチーフがありますが、ここに書かれていることはそうしたモチーフの一つです。自分が安易なグロバりゼーション論や、そしてグローバルヒストリー論に対しても批判的なのは、このためです。
by pastandhistories | 2013-12-11 05:49 | Trackback | Comments(0)
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