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経験をめぐる問題

ピハライネンはヘルシンキで別の会合をこなして、無事トゥルクに戻ったようです。それ以外にも4月下旬にウィーンでのヨーロッパ社会科学会議での報告、それからホワイトについての論文集がまた新しく出るようで、その締切が4月末ということで、かなり忙しい時期だったのですが、それをおして日本に来てくれました。おかげで公開の会を含めて、前後三日間本当に色々なことが議論できました。自分も準備が忙しく彼がペーパーで使用したアイクの本は彼の帰国後に読みましたが、この本も含めてかカーレの議論の立て方は自分の問題の立て方と重なるところがあり、参考になりました。実は3月の末に重要な仕事が一つ入っていて、また時間に追われそうですが、この間彼との議論にともなってt考えさせられたことをいくつか時間があれば書こうと思います。
 その一つはピハライネンがペーパーで論じたexperientiality という考え方です。ペーパーの中にexperience constructed by the text と説明した部分があったので、擬似経験と訳しましたが、経験性とか、あるいはもっと別の訳語をあてるか迷いました。歴史認識の問題を言語論に集約してしまうと、現在では直接経験されることのない過去はすべて(言語的な)テクストを媒体としたものとなる。その点では過去は不可知のものとして相対化される。その問題を解決するためには、(間接的な)言語に比して、(直接性の高い)経験を媒体としていく。その場合、過去が直接経験できないことが確かであっても、現在における経験と類似のものを措定し、過去へアクセスすることが可能ならば、全面的に不可知でも、相対的でもない過去認識が可能になるのでは、という議論がアンカースミットによって出された(「言語から経験へ」)。そのことを批判的に議論していくために、ピハライネンは用いたということだと思います。
 experientiality という単語はなんとなくわかるし、随分と一般的に使用されていそうな言葉である気がしますが、念のために YAHOO で検索したら、ほとんとヒットせず、近年の造語のようです。ニュアンスとしては、experience を直接的な経験とし、それに対比されるテクスト的経験ということにとってよいのかもしれません。しかし、よく考えてみるとこの理解には多少問題があるかもしれません。というのは、であるなら直接的経験とは何かという問題が生じるからです。たとえばこれはペーパーでも触れられていましたが、チャレンジャーは直接的経験なのか。これを含めて現在では多くの情報がテレビやネットで、瞬時的に、同時的に、そして共同化される形で認識されるわけですが、これはあくまでも実際に経験されることではなく、認識がテクストを媒体として得られているに過ぎません。つまり経験されているのは、認識であって、経験そのものではありません。その意味では歴史認識と同じであって、違いは、その対象が過去という異なる時間(then), 現在の異なる空間(there)であるのかという違いでしかありません。
 問題は経験(experience)をそのようにきわめて狭義なものに限定すべきなのかということ。おそらくそのことは、記憶を同じように狭義に考えるのかという問題や、experientiality を構築するさいの媒体(media)となるテクストをどう考えていくのかという問題に関わっています。
by pastandhistories | 2014-03-19 10:36 | Trackback | Comments(0)
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