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複雑系の考え方

 昨日は報告で大阪。結局は3月末までにチャーティスト運動について文章を一つ。返す刀で今度は方法論の報告ということで、くわえて色々と整理しなければならないことも多く、またまたブログは長期の休み。今月後半もまだ雑事がありますが、少しは時間が取れそうなので、いくつか記事を書く予定です。まずは昨日の報告に関して。随分と意外な人が参加していて驚きましたが、同時に感謝しています。でも相変わらず話をまとめるのは苦手。そこで質問があったことについて、いくつか補足的に書いておきます。
 書きやすそうなことから書くと、まずは因果関係・法則性について、歴史は複雑系だとしたらどのように法則が抽出できるのか、あるいはできないのか、という質問に対して。以前プレミアでのレスターの優勝可能性について「ギャンブルと歴史」という記事を書きましたが、ちょうど今レスターの試合中なので、その試合を見ながら書いていきます。
 複雑系を考える場合は、逆に自然科学の一部にある単純系(自然科学すべてが単純系ではもちろんありません)のことを考えるとわかりやすいかもしれません。たとえば「水は百度で沸騰する」という法則。これはギャンブルの対象になるでしょうか。おそらくならないでしょう。このことが示していることは、法則にもとづいて結果が予測できるものは、ギャンブルの対象にはならないということです。
 これに対してスポーツの試合結果はギャンブルの対象になります。色々な与件が入り混じっていて、結果がその都度変わるからです。だとしたら複雑系?。でもたとえばサッカーの試合を複雑系というのはオーバーです。なぜなら参加する人間は審判を含めて僅か30人程度、時間もたったの2時間程度に限定されていて、かつ「ルール」もあります。「歴史」の複雑さにはとても比較できkない。それでも「結果」を「法則」的に予想することはできません。だからギャンブルの対象になるわけです。つまり単純なサッカーの試合ですら実は複雑系に属しています。このことからも分かるように、人間が集団的に行う行為の結果を決定論的に予測することはきわめて難しいことです。そう考えれば、膨大な人々が様々な与件を前提として関係しあう歴史が「複雑系」に属するかという問いは、問うまでもないことでしょう。
 しかし、サッカーの試合がどういう結果になるのかということに関して、因果関係がないわけではけっしてありません。それはサッカーの試合でも、あるいは競馬の結果でも、翌日の新聞を見ればよくわかります。いわく「チームワークが」「エース不在が」「戦術ミスが」あるいは「天候的条件が」等々、勝敗の結果に関して実に多くの「原因」が説明されます。そして翌週の試合、あるいはレースの前には、「結果」に対する「予想」が、そうした様々な「原因」を挙げるかたちで論じられます。もちろんそれは次の週の結果をみれば理解できるように、結果は「当たるも八卦」「当たらぬも八卦」でしかありません。
 アイロニカルに言えば、サッカーや競馬が大衆的なギャンブルになって100年ほどの間に、勤勉な実証的歴史家たちが積み上げてきたデータのおそらくは数万倍以上のデータが蓄積されてきているにもかかわらず、試合の結果はギャンブルの対象としてとどまり続けています。つまり出来事が結果論的には因果的にいくら説明できることが多くても、それがいくら蓄積されても、サッカーのような単純な出来事の結果ですら、「水は百度で沸騰する」というような因果関係で説明できるわけではないということです。だからギャンブルの対象としてとどまり続けているということです。
 しかし、すべての自然科学的法則が単純系に属しているわけではないように、抽出される結果を限定すれば、人間が集団的に行う行為でも、ある程度の蓋然性や傾向性を予測することが絶対できないというわけではありません。たとえば時間軸を恣意的に設定したり、求める答えを意図的に単純化したり(たとえば意図的な二元論的な選択を導入したり)すれば、問題によってはそのことは可能〈にみえる)かもしれません。それが社会科学や人文科学が成立している根拠です。
 しかし、歴史学に関して因果関係の問題を考えるときに重要なことは、その理由を上述したように、結果論的な因果的説明(歴史は起きたことを説明するにとどめるべきだといえば、歴史叙述における因果的説明はそれにとどめるべきだということになります)は、けっして厳密な意味での法則的説明とはなってはいないということです。
by pastandhistories | 2016-04-17 22:44 | Trackback | Comments(0)
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