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労働者文化と大衆文化

 最近は大学の講義のオンライン化が進んでいます。もっとも日本の大学のものは、長くても1時間程度の紹介的なものにとどまっているようですが、欧米の大学のものの中には1学期分の講義を丸ごとオンライン化するものも出てきました。歴史関連でいえば、通史や思想史などについて、そうしたものを現在ではネットで閲覧することができます。
 この間、そのうちの一つ、バークレーでのジェームズ・ヴァーノンによるイギリス近現代史を閲覧しています。1時間程度の講義が全部で21回(24回のヴァージョンもあるようです)。随分と役に立つところがあります。もちろん本人(およびバークレー)の了解が必要でしょうが、サブテキスト的なものとして、日本の大学での授業に利用することができれば、学生にも役に立ちそうです。
 かなりの量だけど、時間の空いたときに閲覧していて、今日は第18回目。20世紀後半の「労働者階級」がテーマとして論じられていました。その中で紹介されたものの一つがリチャード・ホガートの『読み書き能力の効用』(The Uses of Literacy, 1957)です。カルチュラルスタディーズの嚆矢になった書物として日本でも知られています。ということですが、量的な問題もあって、また叙述も労働者の生活・文化のかなり細かい点に及んでいるので、翻訳でも読むのには結構苦労する本です。
 この本をヴァーノンが取り上げているのは、もちろんカルチュラルスタディーズとの関連もありますが、もう一つは、「読み書き能力」、つまり労働者の知的能力の向上が、一方では労働者階級としての自己認識を強めるものであったものであるのと同時に、消費的な大衆文化の受容、それへの同調をも促し、そのことが結果的には労働者階級という枠組みにあった人々の意識的分化を生み出していった。そのことが労働党政権の崩壊を受けたサッチャリズム、そしてニューレイバーという流れを生み出す一つの要素ともなったと考えているからだと思います。
 まだ見ていないので、19回目以降そうしたかたちで話が進むかはわかりません。しかし、伝統的な労働者文化と、大衆消費文化の関係、そしてマスメディアの発達と変容による人々の意識変化の問題をどう考えていくのかは、きわめて重要な問題です。そのことに、現在のアクチュアルな問題を考察していくための重要な鍵があるからです。
 ヴァ―ノンはまたこの時期のイギリス社会を象徴する(原作は戯曲だったり、小説である)いくつかの映画を取り上げています。「怒れる若者たち」の時代の作品。その一つがアルバート・フィニーが主演した『土曜の夜と日曜の朝』。その予告編の映像が紹介されています。そのなかでアルバート・フィニーはマーロン・ブランドになぞらえられているようです。もっとも髪型はどちらかというとジェームズ・ディーン。にもかかわらずブランドになぞらえられたのは、ジェームズ・ディーンの作品は、反抗をテーマにしていても「労働者」的な家庭の話でも「労働者」の話でもないのに対して、ブランドの『波止場』のような作品は、明確に労働者の日常をテーマにしていたからでしょう。
 この話は一度書いたことがあるかもしれませんが、自分がイギリスに滞在していたさいにテレビを見ていてもっとも印象に残った番組の一つは、たぶん2000年(21世紀に入る前・・・イギリスでは日本と違って、2001年が21世紀の始まりです)の、つまり20世紀の最後のクリスマスに、BBCでポール・マッカートニーが第九の指揮をした番組です。その時、マッカートニーはなぜ自分が「ベートーベンなどぶっ飛ばせ」という立場に立っていたのかを、自分は「労働者階級の出身」だからという言葉で説明しました。彼の口から「労働者階級」という言葉が「21世紀にさしかかろうという」時期に飛び出したことが、本当に印象として残っています。
 もっともさかのぼれば、本来ビートルズは労働者階級的な文化と消費的な大衆的文化がなお混在していた時に生じたものであることは、彼らがリヴァプール出身であったことや、その歌詞からも理解できます。今日紹介したような作品のやや後にビートルズは生まれたわけです。しかし、彼らはより大衆的なものとして全世界で消費されていくことになります。そしてその時期は、独自の労働者文化が後退していく時期と重なり合っていくことともなります。
by pastandhistories | 2016-11-20 18:33 | Trackback | Comments(0)
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