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グローバルヒストリーという言葉の連れ合い

 先日「グローバルヒストリーズ」の会合に参加してくれたドミンクザクセンマイヤーに指摘によると、グロ―バルヒストリーという言葉の初出は、1962年のハンス・コーンによるものです(Dominic Sachsenmaier, Global Perspectives on Global History, p.68)。グローバリゼーションはより一般的な言葉で、現在の意味内容とは異なる意味で早くからもちいられていたという例を指摘できますが、一般的にもちいられ始めたのは1960年代、その使用が本格化するのは1980年代から1990年代にかけて、グローバルヒストリーという言葉の使用はもっと遅くてその使用が一般化するのは1990年代、本格化は2000年代としてよいでしょう。何度か書いてきたように、新しい言葉です。その意味では新しい「状況」に対応したものです。
 グローバリゼーションとかグローバルヒストリーという言葉は、これらと同じ時期に使用され始めた新しい言葉は何であったのかということを考えると、その言葉が内包している問題を理解することができます。ほぼ同じ時期に用いられ始め、その使用が一般化した言葉は、意外と普段は気づきませんが、オリエンタリズム、ポストコロニアリズムという言葉です。このことが意味していることは、グローバリゼーションとかグローバルヒストリーという言葉は、(それが英語であることからも分かるように)欧米の側が、西洋中心主義な視点を内在的に批判するものとしてもちいはじめたものであるということです。
 したがってグローバリゼーションという言葉と同様に、グローバルヒストリーはその本来の言葉の意味として、西洋的な視点だけではなく、非西洋的視点を歴史理解に取り入れようとする視座を含むものです。ザクセンマーヤーが、グローバルヒストリー論にも内在するハイアラキカルな不平等性を問題としたり、言語論的なアプローチをとるグローバルヒストリーの論者が、グローバルヒストリー研究を英語に一元化したり、あるいは翻訳にある不平等を問題とするのも、そうした流れがグローバルヒストリーがその立脚点としたものとは乖離する方向にあることに批判的だからです。
 実は早い時期にグローバリゼーションに関する教科書的な本を翻訳したときに、最初の原稿ではそのすべてを地球化と訳しました(したがって最初のゲラはそうなっていました)。地球化と訳せば、日本語ですから個別性、つまり globalization という言葉が前提的に内在させている多様性をそこに含意できる、グローバリゼーションでは結局は西洋中心主義的な思考への同化を含意することになってしまうと考えたからです。しかし、日本社会のあり方から考えて、結局は圧倒的に(かつ無批判的に)定訳化するであろうというグローバリゼーションという訳語には逆らえないだろうと判断して、最終的にはそれを採用することにしました。
 このことはグローバルヒストリーについても同じです。グローバルヒストリーを論じるさいには、この言葉が出発点においてもっていた意味、つまり西洋中心的な世界理解、アカデミックラダーへの批判を持ち続けることが必要だと思います。「世界史」に代えてどうしてもグローバルヒストリーという言葉をもちいたいのなら、そのことは最低限の前提です。
by pastandhistories | 2016-11-28 12:34 | Trackback | Comments(0)
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