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liberation historiography

 ヘルマン・ポウルのヘイドン・ホワイト論の紹介の続きを書くと、この本の大きな特徴の一つは以前も紹介したことがあるように、ホワイトに対するカミュやサルトルなどの実存主義の影響を重視していることです。時代的にはこのことは別にそれほどおかしなことでありません。1960年前後にはカミュ、サルトル的な実存主義がリベラルな思想や批判的マルクス主義と結び合うかたちで、世界的に様々な領域で影響を与えていました。日本でも、たとえば丸山真男はサルトルの戯曲を素材にした政治論を書いていますし、やや揶揄的な響きをありましたが、「マル存主義」という言葉も語られていました。個人の意志的自由を何よりも重んじる立場から、ホワイトもまたそうした立場に立っていたととポウルは考えているわけです。こうした理解から、ポウルは「解放の神学」(liberation theology) をもじって、「解放の歴史学・歴史叙述」(liberation historiography) がホワイトの目指したものであったと繰り返しています。
 またポウルは、もともとはヨーロッパ中世史の研究者でありマックス・ウェーバーの考えを取り入れてその分析をしていたホワイトが次第に歴史理論に関心を移して行く過程のなかで、彼に大きな影響を与えた歴史家としてクローチェの名をあげています。さらにはコリングウッドの名をあげています。さらにはアメリカの歴史家であるベッカーヤビアードの名前も挙がっていますが、同じように彼らの影響を受けた歴史家の代表的人物と言えば、もちろんE・H・カーです。
 その意味ではホワイトとカーは同じ系譜上に位置していると考えることができます。随分と意外感を感じさせる話です。なぜならカーの『歴史とは何か』にいまだに日本の大学で20世紀後半を代表する歴史研究の入門書として取り上げられているように、多くの歴史家に「肯定的」に受け入れられているからです。ホワイトの理解のされ方とは随分と異なります。
 ポウルがホワイトの考えを liberation historiography と呼んでいるように、ホワイトの考えは現状への批判を内在させた、ある意味では「進歩的」なものです。にもかかわらず、なぜ日本ではホワイトとカーとの間にこれほど大きな受け入れられ方の違いが生じているのだろうかという問題はきわめて興味深い問題ですが、この問題についてはまた明日書きます。

by pastandhistories | 2016-12-12 22:50 | Trackback | Comments(0)
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