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歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

1960年代の意味

 ヘイドン・ホワイトは1928年生まれですから1960年代は彼がほぼ30代の時期ということになります。すでに学生の時期は終えていたわけですが、'The Burden of History' が1966年、Metahistory は1973年に刊行されているわけですから、やはりこの時期がホワイトの歴史家としての転換点となったと考えてよいでしょう。
 1960年代の運動は広く文化的な要素を考え合わせれば実に多様な内容を含んでいたわけですが、政治的なレベルに焦点を当てれば、公民権運動やフェミニズムのように差別されていたものへの「権利」付与の要求、そしてヴェトナム戦争に対する反戦運動がその軸となります。さらに大学の問題に焦点を絞れば、学問の中立性や客観性をたてまえに制度化された研究・教育に生じていた権力的なものとの癒着、それを支えたものの一つが専門化と、専門化をとおしての学問的世界の階層秩序化であったわけですが、そうしたものへの批判でした。
 このように考えればホワイトの議論が、1960年代に多くの若者が受け入れた political engagement を継承し、そうした立場から「学問の中立性や客観性をたてまえに制度化された研究・教育に生じていた権力的なものとの癒着、それを支えたものの一つが専門化と、専門家をとおしての学問的世界の階層秩序化」を批判するものとして進められた、時代の情況にきわめて対応したものであったと考えることができます。それがなぜ日本では受け入れられる事が少なかったのか、それは日本の歴史研究が、もちろん「下から歴史」として一部では女性史研究の活発化、あるいは一時的には社会運動史の活性化のような進展を示したにもかかわらず、その多くが「既存の進歩主義的思考」をそのまま無批判に継承するかたちで、実証に沈潜化していったためでしょう。カーが受け入れられつづけ、ホワイトの問題提起がほとんど議論の対象ともならなかったのはそのためだと自分は考えています。
 ホワイトがこうした現状に強い批判意識を抱いていることは、最近ではpractical past 論をとおして、'history, practice left out' を強く批判していることからも理解できます。ヘルマン・ポウルはこうした理解からホワイトを論じているわけです。自分もまたそうした立場から、ホワイトの提起した問題を歴史研究者はもう少しきちんと議論していくべきだと考えています。

by pastandhistories | 2016-12-13 18:07 | Trackback | Comments(0)

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