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ファミリーヒストリーとグローバルヒストリー

 23日と25日の会で配布する予定の小冊子ができました。この2年間のプロジェクトでの英文報告をまとめたものです。それなりに面白いのではと思います。ジェローム・デ・グルートのペーパーも入っています。
 グルートといえば、ある研究会で彼のことを紹介したら、名前から判断してオランダ系かと質問されました。もちろん名前から判断して一世代前は二分の一、二世代は前は四分の一、三世代前には八分の一ほどのオランダ系のDNAが入っていることは確かかもしれません。実はブラジルでのINTHで彼が行ったキースピーチで、彼がそのことをデ・グルート・エスニシティというかたちで論じたことを紹介したことがあります。円グラフを用いて、オランダ系40%、さらにはフランス系、イギリス系、等々がそれぞれなん%くらいかを図示したのですが、当然会場からはオランダ、フランス、イギリスというように分けるのはおかしいという声が飛んで、グルートももちろんそうだと答えていました。はるかに細分された地域をとおして示すほうがより正確だからだからです。そもそも地域を今ある国家に固定的に連結させるのは、奇妙な歴史観であって、個人的なエスニシティをそうしたものに結び付けるのも、さらに不正確なものだからです。そうした誤った認識を子供に与えるような歴史教育は正されていく必要があるでしょう。 
 このことと関連して思うことは、この間報道された教科書への領土問題の記載という問題です。領土の範囲を「国民」教育で教えることは、確かにそれ自体としては全面的に否定されることではないかもしれません。しかし、その根拠が「固有の領土」であるからという文章はおかしなところがあります。なぜなら「固有」とは何に対するものとして用いられているかわからないからです。「固有」に対比される言葉は「共有」なのでしょうか。「本州は日本の領土である」という表現はあっても、「本州は日本の固有の領土である」という表現はあまり聞いたことがありません。自明のことだからです。だとすると「固有の領土」であるとすることは、「共有地ではない」ということを強調することによって、わざわざ係争地であることを認定しているような印象を受けます。その意味では奇妙な表現です。
 おそらくこれは政治家などがしばしば過って用いる「歴史的な領土」ということが使用しきれないことを誤魔化すものためなのだと思います。いうまでもなく、問題となっている土地は、古来からのという意味でけっして「日本」の「歴史的」な領土ではないからです。そもそも歴史的には、日本という国は、平安期までは北海道も琉球も歴史的に領土としていたわけではありません。したがってその延長にある島も、当時は日本の領土であったわけではありません。
 最近では一部で琉球独立論が主張されるようになりました。その根拠の一つはかつては独立した地域であったという歴史の事実に置かれています。だとするように、同じように、北海道は独立してよいのでしょうか。歴史的には日本の支配にはおかれていなかった地域だからです。しかし、北海道独立論というのは、それほど目立ったものとして主張されているわけではありません。北海道に現在居住している人のファミリーヒストリーをたどると、そのエスニシティを高い割合で北海道に置く人は、きわめて少数だろうからです(このことは和人の現在的な多数派形成を全面的に正当化しうるものではありません。それはアメリカやオーストラリアにおけるネイティヴに対する問題と同じです。しかし、アメリカもオーストラリアもイギリスから独立しました。その意味では北海道に独立権があるという考えも成り立ちえます)。
 こうしたことから言えることは、領土問題というのは、歴史的な問題でも、エスニックな問題でもなく、現在的な政治問題であるということです。歴史的なものとして語られるにしても、それはあくまでも第二次大戦後の歴史に基本的には限定して論じられるべき問題であるということです。
 

by pastandhistories | 2017-02-16 22:04 | Trackback | Comments(0)
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