パブリックヒストリーについてのメモ②
パブリックヒストリーのついてのメモということで、昨日はその基本的ないくつかの整理の仕方について書きました。その整理に基づいて、いくつかの理論的問題や、 IFPH でも大きな時間が割かれた博物館をめぐる問題などを書いていく予定ですが、その前にメモとして簡単なことを今日は取り上げてみます。
それは歴史の配布・流通(distribution, currency)という問題です。これも普段あまり気づきませんが、なぜ印刷術の発展とともに、historiography (記述された歴史)が一般化し、とりわけ近代国民国家においてそれが歴史の共同化に重要な役割をしたのかというと、それはそうした歴史が「配布」「流通」に適していたからという側面があります。このことは、たとえば記念物のような建造物、あるいは heritage というような言葉で呼ばれるものが自ら移動はできず、それを認識するためには認識者の移動(たとえば巡礼やお参りのようなかたちでの)が求められたのと対照的です。
移動する歴史は、基本的には印刷技術の発展によって促進されていきますが、近代国民国家の形成とともに、その中においてパブリックな場における歴史認識に意外なほど大きな役割を果たしたのが、紙幣や切手です。紙幣や切手に印刷されたきわめてシンプリファイされた「図像的表象」は、偉人であれ、歴史的遺産であれ、あるいはそのほかの文物であれ、象徴として国民の意識の共同化に大きな役割を果たしました。それがほとんど意識されることはなく、「国民」の間で絶えず distribute され続けたからです。あるいは文字通り currency するものであったからです。もちろん古くから貨幣がそうした役割を果たしていたわけですが、紙幣や切手の果たした役割は、量的にも、質的にもはるかに大きなもとであったと断じていいでしょう。
「動く歴史」、トランスポータブルな歴史です。パブリックヒストリーというと、つい「固定的」な博物館や記念建造物、あるいは遺産に目が行きがちですが、シンプルで軽便であるがゆえに移動性が高いものが、意外なほど歴史認識の共同化に重要な役割を果たしたということにも注意しておいた方がよいでしょう。
それは歴史の配布・流通(distribution, currency)という問題です。これも普段あまり気づきませんが、なぜ印刷術の発展とともに、historiography (記述された歴史)が一般化し、とりわけ近代国民国家においてそれが歴史の共同化に重要な役割をしたのかというと、それはそうした歴史が「配布」「流通」に適していたからという側面があります。このことは、たとえば記念物のような建造物、あるいは heritage というような言葉で呼ばれるものが自ら移動はできず、それを認識するためには認識者の移動(たとえば巡礼やお参りのようなかたちでの)が求められたのと対照的です。
移動する歴史は、基本的には印刷技術の発展によって促進されていきますが、近代国民国家の形成とともに、その中においてパブリックな場における歴史認識に意外なほど大きな役割を果たしたのが、紙幣や切手です。紙幣や切手に印刷されたきわめてシンプリファイされた「図像的表象」は、偉人であれ、歴史的遺産であれ、あるいはそのほかの文物であれ、象徴として国民の意識の共同化に大きな役割を果たしました。それがほとんど意識されることはなく、「国民」の間で絶えず distribute され続けたからです。あるいは文字通り currency するものであったからです。もちろん古くから貨幣がそうした役割を果たしていたわけですが、紙幣や切手の果たした役割は、量的にも、質的にもはるかに大きなもとであったと断じていいでしょう。
「動く歴史」、トランスポータブルな歴史です。パブリックヒストリーというと、つい「固定的」な博物館や記念建造物、あるいは遺産に目が行きがちですが、シンプルで軽便であるがゆえに移動性が高いものが、意外なほど歴史認識の共同化に重要な役割を果たしたということにも注意しておいた方がよいでしょう。
by pastandhistories
| 2017-06-20 10:13
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