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歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

セミ・グローバリゼーション

 気づいた人があるかもしれませんが、昨日書いたことは過去に生じた事実を踏まえていないという点で、きわめて非歴史学的な文章です。最大の誤りは、今後の300年の予測として、一家族についての子供数を二人、一世代を30年としていることです。この推定は、歴史的事実に照らして、明確に誤りです。たとえば、日本で出生者数が一カップルあたり二人を切ったのは、20世紀後半に入ってからであって、それ以前は一カップルあたりの出生者数ははるかに大きいなものでした。これは外国でも歴史的には同じで、また現在でも高い出生者数がある地域が存在しています。さらに、一世代が30年というのも固定的なものではありません。はるかに速い世代交代が行われた時代、地域が歴史的にはありました。そればかりか、DNA操作の医療技術が飛躍的に発達して人間の老化が制御されるようになれば、平均寿命が200歳というようになり、人口を調節するために、出生者数を極端に制限するという社会が、意外なほどの近未来に生じるかもしれません。その意味では、人間の社会が同じような文化的枠組みで維持されつづける考えるのは、きわめて不正確な予測です。
 またグローバル化がさらに促進されるというのも、傾向性としてはかなり確実な予想に思えますが、本当にそうなっていくかについては、なお議論の余地があります。そうした問題を論じたものとして、少し興味深いのは、Pankaj Ghemawat が World 3.0: Global Prosperity and How to Acieve It (2011) で論じた現代の世界を 'semi-globalized' という段階にあるものとして捉える考え方です。実はこの本はまだ入手してはいませんが、その紹介はダグラス・ノースロップが編集した Companion to World History (2012) に、ノースロップ自身が付した最後の要約的文章で紹介されています(同書、500~1頁)。
 Ghemawat の主張の要点は、ノースロップによれば、セミグローバライズドという言葉にも示されているように、現在の世界をグローバリゼーションが全面的に行きわたった社会とは考えてはいないということにあります。そしてネオリベラリズムのようにそのさらなる進行を擁護するのではなく、そこから生じる問題を制御する有効な手段が現在の段階では明確ではない以上、国家による規制を支持する立場から Ghemawat は、現在の世界の状況をセミ・グローバリゼーションとして捉えているようです。
 その具体例として Ghemawat は、たとえば現在でも出生した国で死亡する人は人口の90%を占めることをあげています。またネットを経た情報も、国家的枠を超えて流失しているのは20%以下に過ぎないことを指摘しています(ネトウヨが出す情報はまさに国内限定的なものです)。トレンディ化したグローバリゼーション論に釘を刺した主張としてやや興味深い主張です。普通の人々の日常的生活や言語的な制約を考えれば、グローバリゼーションがさらに進行していく場合でも、それは全面的なものとはなりえずに、ローカリティやナショナリティが残されていくということは、大いにありうることでしょう。それがネガティヴなものではなく、いかにポジティヴなものとして機能していくかが大事です。

by pastandhistories | 2017-07-15 17:38 | Trackback | Comments(0)

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