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 昨日の外語大の会はテーマとしては一般的なものが設定されていたわけですが、「メタヒストリー」の翻訳出版に開催を合わせたという部分があったので、自分としては「日本では」これまでほとんど論じられてこなかった、ホワイトの思想的経歴や議論の基本的な枠組みを紹介することに中心を置きました。しかし与えられた時間は短いということで、いくつかのインタビューを翻訳紹介したわけです。翻訳は自分のために以前作成していたノート的なもので、今回は正式には二週間前の依頼ということで、点検する時間も全くなかったのですが、参加したとりわけ若い人が(若い人が多かったことには随分と力づけられました)参考にしてくれればと思います。
 ホワイトが日本に来た時も、実は事前に自分の手元には5本のペーパーが送られてきました。同時に、未発表であったものが多いペーパーを添付したメールには、「お前が自由に誰に対しても配布してよい」と書かれていました。何度かここに記してきましたが、ホワイトは学問に対してそうした考えを持っている人です。自分も研究会での発表者や質問者の役割は、自分の正しさを論じることではなく(それが絶対に、誤っているというわけではありませんが)、限られたものではあっても参加者にとって有益なものを提供することだと考えています(このブログもそうしたものとして書いています)。不十分なものですが、多少でも役に立ててもらえばと思います。
 ただ予想されたように時間が全然足りなくて、実際の歴史研究に対するホワイトの影響という問題を、具体的な形で紹介することはできませんでした。会が終わってからイム・ジヒョンが話かけてきて「ホワイトのバイオグラフィとして知らなかったことを知ったので有益だった」と言ってくれましが、そうした印象を多くの人に与えるのにとどまってしまったのは少し残念でした。
 そのイムジヒョンの発表と質問については少し残念なところがありました。イムがホロコーストを映画(フィクション)のあり方にホワイトの議論を結びつけたのは、イムらしいシャープな問題提起でしたが、その後の質疑はやや一般的なレベルにとどまっていました。一番残念だったのは、そこで議論されたような内容は、すでにポストモダニズム的な歴史論の系譜な中での重要な人物であり、『リシンキング・ヒストリー』の創立編集者としてポストモダニズムの立場からの歴史のあり方を議論する場を作ってきた、ロバート・ローゼンストーンが「映画と歴史」「映像と歴史」という問題としてすでにきちんと議論してきた問題だからです。
 イムヒジョンも自分の報告でそのことに気付いたようで、後でローゼンストーンは読んでいなかったのでこれから読んでみると言っていました。自分の責任だとも思いますが、ローゼンストーンの議論に関しては、『歴史を射つ』のなかで彼がこの本のために書いてくれた要約的な文章が翻訳されていますし、自分の『開かれた歴史へ』でも紹介論文が掲載されています。またテッサ・モリス・スズキの『過去は死なない』でもローゼンストーンは紹介されていたはずです。
 ローゼンストーン以外にも Marnie Hughes-Warrington, History Goes to the Movies (2007), ジェローム・デ・グルートの一連の著作、など方法論的に優れたものも随分とあるし、何よりもインデアナ大学を中心とした Film and History や、ここでも紹介したことのある IAMHIST などの活動(すでに1980年代から始まっていた)をとおして映像と歴史の問題は随分と議論されてきました。日本の歴史研究がそうした歴史の方法に対する関心をほとんどたどれていないために議論が基本的なことの繰り返しにとどまっているのは、本当に残念です。

by pastandhistories | 2017-10-08 10:45 | Trackback | Comments(0)
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