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歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

International Public History

 センター入試などとぶつかって残念ながら参加者は少なかったけど、デヴィッド・ディーンのパブリックヒストリーのセミナーは、その後の懇親会での交流も含めて内容的にはとてもよかったと思います。表現は少し悪いけど、「鬼の居ぬ間に洗濯ジャブジャブ」。歴史研究の新しいトレンドの意味が、それが生み出された背景とともにわかるところがありました。事前宣伝のさいの説明不足があったのは自分の責任でもあるような気がするけど、ケンブリッジ大学で学位をとっていて本来は世代的にもヒストリーワークショップ運動の流れの中にいた歴史研究者。最後のコメントでも少し紹介しましたが、パブリックヒストリーとポストモダニズムの関係が意外なほど近いことも聞いていてわかる部分がありました。ヘイドン・ホワイトがにわかブームみたいだけど、このあたりのことを視野に入れていないでいて、老婆心ながら本当に大丈夫かなと思います。
 ディーンもそうですが、正直言ってパブリックヒストリーはその現在の組織者たちの能力がかなり揃っている。その点でもかなり発展力のある流れだと自分は思っています。そうした中でいよいよ国際的な組織(International Federation for Public History - IFPH) の機関誌として雑誌(International Public History)が今年の6月から年2回発行されます。その共同編集者の一人がディーンです。オンラインジャーナルで基本的にはレフリー制をとって「英語」というかたちになりますが、これまで他の言語で発表されたものも掲載可、さらにはこのウェブサイトでは他言語のものでもそれを紹介していこうという方向もあるようです。歴史をパブリックなものにするなら当たり前のことかもしれません。英語のみとすれば、英語圏以外の読者は特権的な知的(?)社会層に限られてしまうからです。でも英語以外で書かれたものを誰が読むのかという質問が当然出そうです。もちろんその言語を読める人と、機械翻訳によってです。
 という話をすると、機械翻訳なんて正確ではないから、厳密な読み方にはならないから歴史研究にはそぐわないという意見が当然出てきそうです。しかし、この意見は一体いつごろまで有効でしょうか。永久にでしょうか。そんなことはないはずです。ネットを見ていればわかるように、欧米語系同士の言語であれば、すでに多くのものが機械翻訳でかなりの精度をもって読めます。英語さえ読めれば、本来はフランス語のものでもロシア語のものでもある程度読むことができます。逆にフランス語ができれば、英語が読めなくてもある程度のことを機械翻訳されたかたちで読むことができます。そしてこうしたサポートはわずかこの20年間に急速に進歩しました。あと100年と言わず、50年もたてば、それが何語で書かれていても、ネット上の情報はすべての人に読むことができるものになっていくでしょう。そう考えれば、オンライン上の知的コミュニケーションは、仮にそれが高度の知的内容(?)を伴うものであっても、それぞれの独自の言語で書かれていてもいいというわけです。
 はたしてそうした状況に本当に向かうのか、さらにはそうした技術的進歩があっても厳密な正確さという点では問題が残り続けますが(でもそんなことを言ったら、「有名学者」が訳した海外の文献の翻訳は厳密にはほとんど役立たないし、さらには誰もが自分がふだん外国語文献を厳密に正確に読んでいるかを反省すべきでしょう)、それでも本当の国際化、グローバル化というのは、むしろそうした流れの中にあると自分は考えています。ふつうの人々、つまりそれぞれの場にいるパブリックス(一般の人々)の誰もが本当に知的な交流を平等にできるからです。
 現在の段階ではそれほど容易なことではなく、IFPHの試みもまた紆余曲折していくはずですが、歴史へのアプローチとしてこうしたアイディアがパブリックヒストリー論という流れの中から生み出されつつあるのは注目してよいと自分では考えています。

by pastandhistories | 2018-01-14 20:58 | Trackback | Comments(0)

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