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史学科の区分方法

今週末は日本西洋史学会です。随分と人の集まる会ですが、その一方で多くの人がある種の違和感をこの会には感じ始めているのではと思います。一つは、「日本」西洋史学会であることに、もう一つは、いわゆる三史区分がなお継続していることにです。歴史研究者がそうした枠組みで組織され続けていていいのだろうかという疑問です。 
 人文学・社会科学の危機という問題に関して、哲学・史学・文学というより上位の三区分に対して圧力がかかるようななったのは随分以前からです。学会組織はなおそうしたかたちで継続していますが、実際の学部・学科組織に関しては、多くの大学が再編を余儀なくされました。文学部が廃された大学もありますし、哲・史・文という学科区分を廃した大学も少なくはありません。史学科に関しては、高校教育において日本史、世界史が科目として立っていることもあって、受験生にもなじみやすく志願者が多いので、私立大学などでは幸いにしてなお学科継続が認められています。
 もっとも三史区分の継続に関しては、歴史研究者のなかにも異なった意見があります。自分は一貫して継続には反対の立場です。しかし、史学科内ではほとんど同調者はいませんでした。自分の史学科の編成に関しての意見は、その編成区分を、社会史、文化史、経済史、政治史、などのような研究方法の違いを基準とするものにすべきだというものです。
 その最大の理由は、現状のような区分では、個別実証を盾にした研究の停滞が促進される傾向がますます強まっている感じがあるからです。現状では、日本史研究者は日本史だけをすればよい。東洋史研究者も西洋史研究者もそれぞれの領域だけをすればいいだけです。しかし、方法による区分をすれば、多くの研究者は日本と外国の異なる領域をともにカヴァーしていくことになります。歴史研究の基本は比較史だということが随分と主張されますが、もしそうであるなら、こうした区分の方がよりベターな研究方法です。最低二つの異なる地域を研究することが、当然化するからです。またこうした区分をとれば、歴史研究者は当然のように、それぞれの専攻に関わる方法論的な問題、たとえば、社会学、文化理論、経済学、政治学が理論的に提示している問題を、海外での最新状況をふくめて十分に理解していることを、専門的研究者であることの必須条件として要求されます。そうした領域の専門的研究者との学際的な国際的な議論を行う能力を持つことを求められます。歴史が科学であるというのなら、そうしたことは研究者の最低の義務です。
 正直に評価すると、そうした能力を有する歴史研究者は、現在では皆無といっていいかもしれません。大学での歴史研究がそうしたレベルにとどまっていていいのでしょうか。あえて言えば、大学での歴史研究は文書館や史料館における歴史研究とは異なるべきものだ、と自分は考えています。文書館や史料館での歴史研究が不要というわけではなく、そうしたものを土台としたより高度なレベルの実証研究と理論的展開が大学に属する研究者には求められるということです。また学生に提示されるべきものは、そうした質の高いものでなければならないということです。
 今日書いたことには大分反論がありそうです。しかし、人文学の危機を感じるなら、重要なことは自分を被害者の立場に置くだけではなく、自分に課せられた義務を前向きに考えて、それに立ち向かっていくことです。アイロニカルに言えば、現状の歴史研究はただちに過去の遺産となってしまうようなものを次々と生み出しているようなところがあります。過去の遺産を研究する歴史研究が、自ら歴史遺産になるものでしかない。そうである限り、人文学の有力分野の一つであった歴史学の危機はさらに進行していくような気がします。

by pastandhistories | 2017-05-15 15:54 | Trackback | Comments(0)
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