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最後のプロジェクト;カーレ・ピハライネン

 以前紅白歌合戦には勝てないと書いたことがありましたが、ロンドンオリンピックの時と同様、ソチオリンピックが始まったらアクセスがかなり減ったようです。もっともそれ以上の理由は、2月に入ってから一度しか書いていないことにもあるのでしょう。オリンピックを見ているからでなく、3月9日(日)に予定されているプロジェクトの最後の準備に少し時間を取られているため。先週半ばにポスターを送り、来週頭にはこれまで参加してくれた人を中心にメールを出す予定です。
 最後ということで、懇親会もしたいので多くの人が参加してくれればと思うのですが、問題は招聘に応じてくれたカーレ・ピハライネン(フィンランド:オーボ・アカデミア大学)の知名度。確認のためにネットで検索をしたら、このブログの記事以外にヒットしませんでした。簡単に紹介すると、 Rethinking History の編集委員をしていることからもわかるようにポストモダニズム的な歴史理論に立つ人物。ヘイドン・ホワイト、フランク・アンカースミットの理論を本格的なかたちで発展させていく可能性を期待されている人物です(ネットで検索すると欧米では高名なアンカースミットについても、このブログ以外で取り上げているのは数例しかないので、カーレが日本で知られていないのは仕方がないかもしれませんが)。
 ホームページがあって、そこに掲載されている最近の業績をそのままペーストすると、
25. Pihlainen, Kalle. 2013. Rereading narrative constructivism. Rethinking History 17:4, 509–527. DOI: 10.1080/13642529.2013.825085
24. Pihlainen, Kalle. 2013. Mulholland Drive and the surrender of representation. Storia della Storiografia 63:1, 87–106.
23. Pihlainen, Kalle. 2013. Escaping the confines of history: Keith Jenkins. Rethinking History 17:2, 235–252. DOI: 10.1080/13642529.2013.778126
22. Pihlainen, Kalle. 2013. The work of Hayden White II: Defamiliarizing narrative. The SAGE Handbook of Historical Theory (ed. by Nancy Partner & Sarah Foot), SAGE, 119–135.
21. Pihlainen, Kalle. 2012. Cultural history and the entertainment age. Cultural History1:2, 168–179. DOI: 10.3366/cult.2012.0019
20. Pihlainen, Kalle. 2012. What if the past were accessible after all? Rethinking History16:3, 323–339. DOI: 10.1080/13642529.2012.695042
19. Pihlainen, Kalle. 2011. The end of oppositional history? Rethinking History 15:4, 463–488. DOI: 10.1080/13642529.2011.616408
18. Pihlainen, Kalle. 2011. Historia, historiatietoisuus ja menneisyyden käyttö. Kasvatus & Aika 5:3, 5–17. [History, historical consciousness and the use of the past.]
17. Pihlainen, Kalle. 2010. Critical historiography in the entertainment age. Historein 10, 106–116.
16. Pihlainen, Kalle. 2009. On history as communication and constraint. Ideas in History4:2, 63–90.
15. Arstila, Valtteri & Pihlainen, Kalle. 2009. The causal theory of perception revisited.Erkenntnis 70:3, 397–417.
14. Pihlainen, Kalle. 2008. History in the world: Hayden White and the consumer of history. Rethinking History 12:1, 23–39. DOI: 10.1080/13642520701838769
13. Pihlainen, Kalle. 2007. Performance and the reformulation of historical representation. Storia della Storiografia 51, 3–16.
といった感じで、この10年ほどに、Rethinking History をはじめとして、Storia della Storiografia, Historein, Idea in History という歴史理論を扱っている代表的な雑誌に精力的に執筆し、Sage からでた歴史哲学・歴史叙述についての論文集の寄稿者ともなっています。また特筆して良いのは、昨年の国際文化史学会の基調報告者の一人であり、またCultural Historyの第2号に文化史の方向性に関係する論文を書いていることです。
 この論文の骨子は、言語論的転回の提起した問題をふまえながら文化史や女性史、ミクロヒストリーという現在的な歴史学の方向性をどう考えていくべきかというもので、歴史研究の現在的問題をフォロウしたものとなっています。どちらかといえば歴史哲学の立場に立つアプローチで、言葉遣いや議論の進め方にとっつきにくいところもありますが、論文のタイトルにentertainment, communication といった言葉が散見されるように、パブリックな場にある歴史の問題や読者との関係から歴史を捉えるといった問題にも目配せしていて、評価されてよい研究者です。人物的にはきわめてフランクで、誰とでもきちんと議論しあえる人なので、その点でも期待してよいと思います。
 最後のプロジェクトですので、多くの人に参加してもらえると嬉しいのですが。それから文化史についてのメモが途中で中断していますが、折をみて残された部分は書く予定です。
by pastandhistories | 2014-02-16 21:01 | Trackback | Comments(0)

因果関係と論証の手続き

 やっと色々なことが片付いたので、春に向けての計画を建てようと思っていたところに、大雪。ずっと体を使うことがなかったので、雪かきはいい気分転換になりました。 ついでに部屋の片付けをと思ったのですが、大変な状態。本箱が二つしかないので(それでも一つ増やしたのですが)完全に積んどく状態。日本語のものはそれでもいいけど、横文字はその状態になると手が負えません。時間をみて部屋の大整理をしなければいけなさそうです。
 昨日の夜は、久しぶりにネットサーフィン。4月からの授業(現代史概説と特講)で使えそうな映像・画像資料や、海外の歴史研究者のインタビュー・講演をチェックしました。その中で面白かったのは、ホブズボームへのイグナティエフのインタビュー。Age of Extremes の出された後に行われたもののようです。このブログは月間のトータルのアプローチ数がわかるようになっていますが、常にベストスリーにホブズボームに触れた記事が入っています。ということで今日はこれを紹介しようと思ったのですが、ネットを開けたらJAHOOのトップは都知事選挙ではなく、2013年度の貿易収支について。その記事の内容について、前から気になっていたことがあるので、また卒論や修論を読んでもそう思うことがあったので、「因果関係と論証の手続き」ということで今日は書きます。
 記事の内容は、要するに2013年の経常収支が前年比31.5%減となり、比較可能な1985年以降での最小額を更新したというものです。ここまでは統計的事実、つまり結果です。問題はその原因の説明です。「火力発電燃料の輸入高止まりや円安進行にともなう輸入物価上昇で貿易赤字が前年の1.8倍に大きく膨らんだことが響いた」(時事通信)、「火力発電のための燃料輸入額が円安で割高になっていることが響き、貿易赤字が10兆6399億円と過去最大になったことが大きい」(朝日新聞デジタル)、と説明されています。
 実は今日はドイツの2013年の貿易統計も発表されています(気がつかれないようにしか扱わないかもしれませんが)。その結果は、「2013年の貿易黒字は、1989億ユーロ[約27兆円)と、金融危機直前の2007年に記録した1953億ユーロを上回り、過去最大となった」というものです。これも統計的事実です。
 言うまでもなく、ドイツはメルケル首相が脱原発を明言し、原発は稼働していません。もし、「火力発電のコスト」が貿易赤字の原因なら、ドイツも同じように貿易収支が悪化しなければならないはずですが、事実は逆です。そもそも貿易収支を論ずる場合、時事も朝日も円安を順序としては火力発電に対する二次的要因としてあげていますが、この問題の因果関係を論じるなら、順番としては一次的なマクロ的要因は、為替レートです。年か50兆円の輸出・輸入がそれぞれあった場合、為替レートが15%の円安となれば、輸出額は7兆5千万円減少し、輸入額の増加は8兆円を超える額に、ほぼ16兆円の貿易赤字が生じます。円安による輸出「量」の飛躍的増大がなければ、そうした結果が生じます。したがって円安政策にも関わらず、少なくとも2013年の段階では輸出「量」の絶対量が大きく増加しなかったことが、マクロ的な貿易赤字の原因であったというのが正しい因果関係の説明です([いずれの記事にもこのことは書かれていません)。
 さらに言えば、もし火力発電がこれほどの貿易赤字の原因だというのなら、ドイツとの対比はもちろんのこと、燃料の輸入額が輸入額全体にどの程度の比率を占め、さらにその燃料輸入の中でどの程度が火力発電に用いられているかを試算し、その数字をもとに10兆円の貿易赤字の何%が火力発電への特化による発電費用の増大分を占めるかを具体的に説明しなければならないはずです(当然のことですが、その数字が為替レートというマクロ的な要因を超える額であるわけがありません)。自分は経済学者ではありませんが、燃料費が総輸入に占める割合は20%程度のはずですし、もちろんそれらは自動車などの輸送関連エネルギー、暖房用などに多くが使用されているわけで、全てが発電に使用されているわけではないでしょう。
 今日こうした記事を書いたのは、やはり他を見て我を振り返る必要があると思うからです。因果関係を説明する論証の手続きは、歴史叙述においてもきわめて大事なことです。 
by pastandhistories | 2014-02-10 11:28 | Trackback | Comments(0)

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