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三日前に独立

 「今日」は何の日かと「昨年」は報道されていたのかというと、「主権回復の日」。そのことを「今年」はどのように報道されるのでしょうか。
 歴史で重要なことは「現在」それがどう語られているかということと、実際にそのことが起きた時にどう語られたかということ。「今日」に関してそのことを多くの人が確認することができるのは、国立歴史民俗博物館の第六展示場(現代史)。学期初めに新入生と一緒に行った時にこの部屋をのぞいたら、メーデー事件の様子を撮影した当時の映画ニュースを見ることができました。最初に日の丸が翻っている場面からはじまって、「独立の三日後」に事件が起きたということが当時のナレーションで声高く説明されていました。当時の映画ニュースは他の娯楽の少なかった時代に多くの人が映画館で見ていたもの。1952年当時は、講和条約の発行によって「日本は独立した」ということが多くの人の共同の認識であったということです。
 このことに関して政府が主権回復の日などと言い出す前に、学生に教室で「日本が独立したのはいつか」と聞いたことがあります。1952年と答えたのは、数名。おそらくそれは、ある時期から「当時の人々にとっては共通の認識であったこと」を、後の世代の認識とはさせないような教育が行われていたためです。
 「あらゆる歴史は現在史」であることを確認しつつ、同時に史料を通して過去に内在することが、現在の歴史への批判と、そして現在の社会のあり方への批判を作り出します。
by pastandhistories | 2014-04-28 07:15 | Trackback | Comments(0)

明日出発

 今日は朝からネットサーフィンをしていました。その中で驚いたのは、オバマ大統領の韓国での発言についての原文の紹介です。
 I think Prime Minister Abe recognizes, and certainly the Japanese people recognize, that the past is something that has to be recognized honestly and fairly. But I also think that it is in the interest of both Japan and the Korean people to look forward as well as backwards and to find ways in which the heartache and the pain of the past can be resolved"(http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2014/04/25/press-conference-president-obama-and-president-park-republic-korea)
というものですが、ここまで安倍首相はバカにされたということです。この文意はもちろんいくつかに取れます。英語的には、安倍首相は首相だから、一部の(右翼的な、歴史に対しての誠実な公平な知識を持たない人とは違って、歴史をきちんと認識すべきだという取り方、あるいは間違いなく日本人の多くは歴史を誠実かつ公平に認識すべきことを知っているが、安倍首相もまたそうすべきだという取り方です。いずれにせよ、アンネ・フランクの家での安倍首相の発言をふまえた痛烈な皮肉であって、なぜここまでの言われ方をしたのかという重さを安倍首相には考えてほしいですね(そうした能力があればですが)。
 それからもう一つ目にとまったのは、ホブズボームについてのいくつかのツイッターの記事です。その一つは、「昨年亡くなった偉大な歴史家ホブズボームは、なぜダメダメなイギリス共産党を辞めないんですか?という問いに、スペイン内戦に一緒に義勇兵で参戦し、死んだ仲間のことが忘れられないからと答えていた。そして死ぬまで反グロ運動を、反ネオリベ運動を励ました。」という記事。これは以前このブログで紹介しかけたイグナティエフとのインタビューにまつわるものでしょう。ここで紹介されているとおり、インタビューはホブズボームという歴史家の誠実さがよく伝わるものです。ホブズボームが一貫して守ろうとしたコミュニストという立場と、同時に彼の人生を貫いたリベラリズムとの矛盾についてのイグナティエフの執拗な、かつ適切な問いに対して、ホブズボームはこの記事のような答え方をしています。生きながらえた自分がその後の社会の変化や、新しい知見によって、その考えを変化させえたとしても、ある時代の枠組の中で誠実に生き、そこで人生を閉じた人間はその意見を変えることはできない。そのことへのシンパシーはたとえ自分を批判にさらすものものであっても、生涯失うわけにはいかない、ということです。
 もう一つの記事は、「昔の私は、歴史研究は原子物理学などとは違って、何の害も与えることはないと考えていた。ところがそうではなかった。私達の研究はIRAが化学肥料を爆薬に変えることを学んだ集団実習室と同じような爆弾工場になることが可能なのである」というものです。『ホブズボーム歴史論』として翻訳されたなかの文章の紹介。読みかえれば、歴史がなによりも「敵(他国民)は殺せ」というイデオロギーの最大の根拠となったことへの批判。こうした考えが、『伝統の発明』や『極端な時代』のモテーフとなりました。
 「 4月末に、ロンドンでホブズボーム追悼集会が行われます。歴史家たちの集会みたいだけれど、マルクス主義や現代社会論なども含むセッションがあるよう。偉大な歴史家だったね。」と以上とは別のツイッターで紹介されているその集会に参加するために、明日出発します。といっても連休中にもかかわらず授業は予定されている週。その補講は8月となります。大学のグローバル化が声高に主張されているのに、現在の大学の日程では、海外で国際的な学会や研究会への参加は、相当な無理をしなければ不可能。今回も本当に強行日程ですが、知り合いの研究者が随分と集まるので、それが楽しみです。
by pastandhistories | 2014-04-27 11:29 | Trackback | Comments(0)

悪い冗談

 昨年の4月は、このブログへの記事は一つしか書きませんでした。『歴史として、記憶として』の出版準備に追われていたため。今年はその轍を踏まないようにと思ったのですが、やはり忙しい。その一つは、自分のではなく、他の人の本の出版の手伝いが入ったため。昨年亡くなった相良匡俊さんの論文集が山川出版社から出版されることになり、そのゲラがきました。校正がてら読んでいますが面白い。19世紀末から20世紀にかけての社会運動史・労働運動史(あるいは民衆史)の本として、意味ある出版だと思います。刊行は7月になる予定です。
 19世紀末から20世紀初頭といえば、世界的にも労働運動が盛んになった頃。メーデーがはじめて行われたのは1886年だったはずです。その時掲げられたのは「8時間労働」というスローガン、遅れて20世紀に始まった日本のメーデーでも掲げられたのは8時間労働というスローガンです。今からほぼ100年前の話。こうした運動の成果として、多くの国で8時間労働制度が実現されるようになりました。
 ということなのに、日本では労働時間規制緩和と称して、「歴史の流れ」に大きく逆行する流れ。そればかりか、その推進者である安倍首相をメーデーに招くという話です。支離滅裂。日本の現在の労働運動の指導者はそこまで歴史に無知なのでしょうか。また 「歴史の事実に謙虚に向き合う」といったのは、安倍首相本人だったはずです。日本は悪い冗談、歴史への無知が蔓延る社会になってしまいました。
by pastandhistories | 2014-04-25 06:56 | Trackback | Comments(0)

記憶の権利

 自分の文章が最初に活字になったのは、ジョージ・オーウェルの『カタロニア讃歌』の書評です。大学に入学した年に『日本読書新聞』の書評コンクールに応募したのが入選したためです。映画評論家の佐藤忠男さんが選んでくれました。学部の卒業論文のテーマが、「フランス人民戦線」であったのもこの本の影響があったためですが、そのことを含めてオーウェルの作品には随分と影響を受けました。そうした作品のなかでオーウェルのテーマとして自分が感じとったことは、個人として経験したことの記憶の絶対性、その権利という問題です。
 「歴史の事実に謙虚に向き合い、後世に語り継ぐことで平和につなげていかなければならない」というのは、安倍首相の「アンネ・フランクの家」を訪問した時の言葉だそうです。しかし、金子勝さんのツイッターによると、
「2006年12月に安倍首相は国会で「全電源崩壊は起こりえない」と答弁した福島事故最大の責任者と指摘してきたが、答弁書が衆議院議事録から削除されていた」そうです。さらには、「安倍首相の不都合な答弁書が拡散しないように、典型的なリンク切断手法が使われていた。INTERNETというフォルダーを作り、そこに移し、従来のリンク先には「場所を移しました」とだけ記載」されていて、「平成18年12月の国会質問に、我が国の原子炉は「外部電力がなくても冷却可能」「鉄塔が倒れても外部電源が供給受けられた例」があり全電源喪失したフォルスマルクと「同様な事態が発生することは考えられない」と答弁」したことが容易にはアクセスや検索の対象にはならないように処理されているとのことです。
 これが事実としたら、本当にひどい話です。実際にこれに対しては、「過去にさかのぼって、国家の公式記録を改ざんって、ジョージ=オーウェルの『1984年』かよ!?まさか自分の住む国で、あのディストピア小説が現実化するのを目の当たりにすることになろうとは」「全国の何万、何十万、何百万の人間が安倍の2006年の全電源喪失についての答弁を覚えている。それなのに記録を改ざんをするとしたら、証人が100万人居る裁判で書類にないから事実はないと言っているようなものでお笑い草でしかない。」というコメントをネットで読むことができました。
 しかし、『1984年』という小説のテーマがそうであったように、あるいはこのブログでも福島の原子力発電所の3号機の爆発映像やロンドンオリンピックの入場式の例をとって記したように、現在の日本の社会では、「お笑い種が現実化」しているという面が少なくありません。そういう社会で語られている歴史の事実は、「歴史の事実」でしかないということなのでしょう。歴史家は「歴史家」でないのなら、記憶への権利を保持し続け、歴史の事実に怒りをもって向かい合うべきでしょう。
by pastandhistories | 2014-04-11 22:11 | Trackback | Comments(0)

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