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デジタル化とその後

 前々回も書きましたが、今回のチャーティスト研究集会の焦点の一つはやはりデジタル化への対応。たぶん最近はどの個別テーマに関する会でも似たり寄ったりでしょうか、話題の一つはどの史料がどこまでデジタル化されたかということ。休み時間でももっぱらその情報交換をしているという部分もありました。
 しかし、問題はデジタル化のその後の問題。それを一方で今回の会では感じさせられました。たとえば前々回紹介したケート・ボウワンのマルセイエーズに関する研究では、『ノーザンスター』への登場回数が取り上げられましたが(初期はきわめて少なかったけど、1848年前後に増加した)、そもそも記事がほとんどなかったのなら、重要ではなかった、というより「重要ではなかったという発見があった」、ということになるかもしれないけれど、当然それ以外の歌はどの程度取り上げられていたのかという質問が出ることになります(この点について、ボウワンは論文で紹介したように、きちんとしたアプローチをしています)。それ以上にフランス革命全体や個々の事実がどいうように扱われていたのかというより大きな問題をきちんとした議論をすることのほうが、より大きなテーマで、そうした前提や問題意識を欠いたl「検索」研究では、似たような研究が量的に増大していけば、やがては「研究ノート」のレベルにも達しないと扱われるだろうという気がします。
 自分は地方史的研究にそれほど否定的ではありませんが、入手が遅れていて会場で入手した実質的には(会でもそうでしたが)現在のチャーティスト運動のもっとも中心的な研究者の一人であるマルコム・チェイズの論文集(The Chartists: Perspectives & Legacies, 2015・・・本のタイトルがなぜChartism ではなく、Chartists なのか、チャーティズムは崩壊したけど、チャーティストは存続しつづけた、という考えからもとられているようです。p.106)を眺めると、意外なほど一時期盛んになった地方史には批判的で、その後退に対してはむしろ肯定的なニュアンスも記されています。
 デジタル化を利用した地方史的研究ははある意味では日本の研究者にも現在では取り組みやすいものですが、その前提としてそうした研究をとおして何を議論しようとしているのかということに説得力がないと、やがてはより大きな研究の流れからは逆に取り残されてしまうかもしれません。
by pastandhistories | 2016-06-18 11:02 | Trackback | Comments(0)

ツーリストインダストリー

 今マンチェスターをへてリトアニアです。これまで海外出張では研究費からの出費ということで、観光をしたことはなかったけど、今回は自費ということで、観光をしています。おとといはトロイカ城へ。かなり復元が進んでいて、当然のように内部が観光客向けの博物館になっている。城全体もそうだけど、復元やレプリカをそれらしく見せかけるために、少し古びたもののようにしています(でもこれは奇妙、その当時なままということなら新しかったのだから、新しいもので構わない。古びたもののように見せかけるのは、「現在」が作り出しているイメージで、過去そのものではないはずです)。
 かなり日本からは来にくいし、それほど知られてはいないだろうけど、ここにも日本からの団体客がありました。とにかく、政府が産業の一つとして力を入れているらしく、それなりに外来者の興味に応えてくれるようになっていて、日本人にも好評のようです。でもこうして「観光」をしていると、あらためて歴史は「ツーリストインダストリー」の一つでもあるということを感じさせられます。最近は理論的な国際学会(たとえば文化史のような学会)に行っても、その点を強調する報告が少なくない。自分の中では歴史をどうしてもイデオロギー的に理解する(たとえばナショナリズムとの関連から)という関心の持ち方があって意外感があったけど、海外からの観光旅行者という立場に立ってみると、そうした関心のあり方がそれほどおかしなものでないことに気づかされます。
 「記憶の場」とかコメモレーションということが一時期ずいぶんと議論されたけど、異国からの観光者という立場に立つと、これとは少し異なる問題も歴史にはあるということなのでしょう。
by pastandhistories | 2016-06-16 13:29 | Trackback | Comments(0)

チャーティズムデイ

 いまマンチェスターです。今回の渡欧の最大の目的だったチャーティスト運動の研究者の集まり(チャーティズムデイ)は昨日終わりました。この回は最初は連続的に出ていたのですが、ワンディ・コンフランスでかつ学期中に開催されることが多く、歴史理論をめぐる海外学会への参加に重点を移してから足が遠のいていました。今回はチャーティスト運動史をめぐる新しい文章を書いたこともあり、その内容確認を含めて参加しました。
 参加には十分成果がありました。まずは、プロザロをはじめ、ポール・ピカリング、マルコム・チェイズ、ロバート・プール、ジョン・ベルチェムなどの旧知の研究者に会えたことです。また会の内容も参加した意味を感じることができました。今回書いた文章でも触れましたが、それぞれの報告で、つねに問題となったのは、デジタル化の流れをどのように研究に取り入れていくかということです。報告の内容そのものは、チャーティスト運動と宗教の関係、禁酒運動との関係、というテーマに始まって、『共産党宣言』の英訳者であるヘレン・マクファーレン論、それからこれは意外だったけどパーマーの「大西洋革命論」からの運動の国際的位置づけの試み、「マルセイエーズ」がチャーティスト運動の中でどういう位置を占めたのかという問題、チャーティスト運動とアイルランド合同撤廃運動の関係をめぐる議論の見直し、チャーティスト運動の中国論とオーストラリアにおける中国人排斥との関係、そして最後はタイトルは「チャーティスト運動における空間と場所の意味」というものですが、実際には研究のデジタル化の全体的な方向性と、具体的なアプローチの提示、といったものでした。
 それぞれおもしろかったのですが、議論が盛り上がったのは後半の4本、「マルセイエーズ」論は、今回の文章でも紹介していますが運動のおける音や音楽の役割に着目しているケート・ボウワンによるもの。やや検索機能に頼った部分もあり、もっと対象を広げるべきだろうという批判も当然出たけど、問題設定としては評価してよいものだと感じました。マシュー・ロバーツによる合同撤廃運動との(あるいはアイルランド人との関係)関係についての報告も従来比較的見られがちだった図式的整理を超えた問題設定があり、説得的なもの。ピカリングの報告は、チャーティスト運動の諸要求が世界的には早く実現したオーストラリアで、そうした民主主義の制度化が人種排斥と結合したことを論じたもの、民主主義の二面性をめぐる原則的な議論でそれはどこについても論じられるのではという質問が当然のように出たけど、それを一般論としてではなく具体的に論じた彼らしいものでした。
 でもやはりもっとも現在的な報告だったのは、カトリーナ・ナヴィクタスが行った最後の報告。デジタル史料とその分析技術を駆使したもので、これは確実に今後に大きな影響を与えるだろうと感じさせました。盛りだくさんの内容でここで簡単には紹介しにくいけど、たとえば集会場所の密度とか、デモの行進経路、指導者の巡歴コースなどを検索機能を利用してマップ化していく、ただそうした技術的な内容だけではなく、それらをとおして空間や場所の象徴性を説明することも可能だとするもので、高い意欲を感じさせました。最後の研究成果の3D化の可能性について、その一例を示したけど、この問題はおそらくは歴史と映像の問題とのかかわりからこれから十分議論となりうるものでしょう。
 会の終了後は駅へのタクシーを探していたら『ヘレン・マクファーレン』論を書いたブラックとあって一緒にタクシーで駅へ、そこで今度は Our History の執筆者であったジョン・バクスターに会い一緒の電車に乗ることになりましたが、待っている間に一方的に話をまくしたれられることになりました。でも彼は好人物ですね。
 最後になりますが、この文章と多少関係する「チャーティスト運動の物語り方、分析の仕方」という文章が出発の直前に刊行されました。自分はそれほど積極的に抜き刷りを送りませんので、関心のある人にはお送りしますのでtsyokmt@hotmail.comに連絡してください。送料はこちらが負担ですが、署名は基本的にはしない主義です。もっとも今回はたまたまもっていたん抜き刷りをピかリングに手渡したら、署名を求められ当惑したのですが。

by pastandhistories | 2016-06-12 14:41 | Trackback | Comments(0)

現状と予定

またしばらく休んでいました。時間をとられていた英文原稿の方は5月末の締切どうりに完成しました。最初の注文は「歴史と科学」について書いてほしいというかなり大きなものだったのですが、さらに日本における「歴史の物語論」について具体的な例示がほしいというトンデモ注文が入りました。自分の能力をはるかに超えたもの。折悪しく研究室からもちかえった本はまだ整理が全然進んでいないということで難渋していますが、なんとか見通しがつきつつあります。何度か書いてきたように「日本では」という枕詞をつけることは好きではないのですが、やはりそうしたことへの関心があることも否定できない事実です。しかし、これも何度も書いてきたようにy、そうした内容を横文字で書くときは、きちんとした理論的な問題を立てることが一番大事なことです。そうでないと、「日本では」という「自分の庭」での議論におちいってしまう。というより逃げ込んでしまう。逆に相手の庭に受け入れてもらうだけでもダメ。そのあたりが英文で文章を書く時の一番の課題です。
 ということの毎日なのですが、9日からイギリスとリトアニアに行きます。イギリスはチャ―ティズムデイというワンデイコンフェランスに参加するため。中心的な研究者もだいぶ入れ替わっているので、そうした人たちと会うのが合うのが楽しみです。後半はまったくの私用。費用はすべて自分持ち、時間を自分で使えるので、その点も楽しみです。 
 このブログはあくまでも研究上のヒントを提示するためのものですが、忙しくなるとどうしてもスケジュールの告知を書くことがあります。今日の記事もそうしたもの。今回は17日に帰国しますが、また30日から海外となります。主たる用事は今書いているペーパーの発表ですが、それに合わせていくつかの会に参加するためです。そうした会を利用して今年も多少の予算がある招聘プロジェクトのプラニングを具体化していくつもりです。さしあたっては夏休みに入る前に会を開催できたらと考えています。具体化するためには、メンバー間の合意をはじめいろいろな準備作業が必要で、いちおう日程的には7月30、31日くらいの日程が予定できればと考えています。バッテイングが多そうですが、関心のある人は日程を開けておいてください。
by pastandhistories | 2016-06-07 11:35 | Trackback | Comments(0)

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