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歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

ダブルスタンダード

 三寒四温とはよく言ったもので、何日か寒い日があったけど、今日は日射しがまた強くなりました。結局歩行には多少の違和感がまだ残っていますが、体調は大分よくなった感じです。仕事の方は前回書いたような状況で、読みかけで中断していた横文字を読んでいます。結構ためていたので大変。でもなかなか手を付けられないことなので、時間のある時にということです。あと民主主義論についてのメモ書きのようなことを始めました。こちらのほうが本職。だったのですが、いつのまにか歴史理論、さらにはパブリックヒストリーの迷い込んでしまいました。こっちは読んでも読んでもきりがない。特定の事件をあつかう論文や著書は、クロノロジカルに事実を追えばよいところがあって史料確認という一定の手続きさえ踏めばそれなりに書くことができるけど、理論の問題は限りがないところがあって、あんまり勧められないですね。
 ところでこの間、2026年に開催される国際歴史学会議について、アフィリエーションしている学会から参加するかという問い合わせが盛んに来ています。応募締め切りが近いづいているからなのでしょうが、留保せざるを得ない。開催地がイスラエルだからです。前回のポズナニの大会ではロシアからの参加が認められなかった。ウクライナ戦争が理由です。だとしたら、現在のパレスチナ問題を考えれば、イスラエル開催はどうしてもおかしい。アメリカのネットワークの影響下にある五輪開催がその影響を受けるのは分かる。しかし、歴史研究者が科学的議論をする場で、このダブルスタンダードはあまりにおかしいというのが偽らざる感想です。たしか運営委員会の会議は今年は日本であるはずです。
 その一方で、前回のメキシコで開催された国際歴史理論ネットワーク(INTH)にはウクライナ戦争にもかかわらず、ロシアからの研究者も直接参加していました。研究者の集まりである以上、当然のことです。ポーランドという開催場所の関係がおそらくあったのでしょう。国際歴史学会議はロシアからの参加者を認めませんでした。だとしたらイスラエル開催は妥当でしょうか。でも開催されるということで準備が進んでいるようです。このことは、スポーツの世界以上に、学問的世界にある強固な欧米中心主義という偏向を示すことになるでしょう。日本の歴史研究者はこうした問題をどう考えているのでしょうか。

# by pastandhistories | 2024-02-24 11:53 | Trackback | Comments(0)

予告

 もうそろそろ3月。春めいてきました。仕事の状況は、「続パブリックヒストリー研究序論」が3月に刊行されます。続ですから前回書いたことをまとめ直し、その後の動向を扱いました。並行してもう1本「パブリック(ス)におけるパブリックヒストリー」という論文も書いて、これも後は注の確認程度。いつでも最終的に提出できる状態になっています。これはパブリックヒューマニティーズに関する論文集の企画の中の1本。もしこの企画が中断されるようになった場合は、別の形で発表できればと考えています。
 原稿書きはそんな状況。予定していた2本がほぼ終わり時間が多少できたので、今は途中で中断していたいくつかの横文字を最後まで読む仕事に取り掛かりました。途中で中断していたことには、読みにくいとか、あまり面白くないとかいくつかの理由がありますが、いつまでもほおっておいてとも思うので、何とか最後まで読み終えようかなというところです。このブログに関しては、この後は Marko Demantowsky, Public History in School を紹介する予定です。簡単なノートは取り終わっていますが、もう一度読み直してと思うので、少し時間がかかるかもしれません。
研究会については、パブリックヒストリ研究会が次のようなかたちで完全対面で行われます。スペースをとるので、詳しくは研究会のHPを参照していただければということです。それではその時にお会いできたらと思います。

 パブリックヒストリー研究会5周年記念大会&総会
2019年3月13日に第1回大会を開催してから、5年ほどが経過しました。この間当研究会はCovid19 の感染拡大もあって、一時期対面研究会の中断を余儀なくされてきましたが、ZOOMなどを併用するかたち、16回にわたる研究会を開催してきました。幸いにしてCovid19関連の規制も緩和され、このほど結成5周年を記念して以下のような内容で、研究報告会・総会を対面で開催することとなりましたのでお知らせする次第です。会員・非会員を問わずパブリックヒストリーに関心のある皆様のご参加をお待ちしています。
なお当会は特に会費のようなものを定めずに運営されてきましたが、今回は会場費などの都合もあり、参加費(500円/学生・院生は無料)、事前登録を以下のようなかたちでお願いすることになりました(※寄付金の設定あり)。参加費 500円/学生・院生は無料(*peatixでは寄付価格も設定されています)
お申し込みはこちらからお願いいたします
※コンビニ / ATM でのお支払いは、2024/03/12 で締め切られます。開催日 3月13日(水)時間 10時~18時場所 国士舘大学世田谷キャンパス34号館2階B203室*最寄り駅が小田急線梅ヶ丘駅もしくは東急世田谷線の松陰神社前駅https://www.kokushikan.ac.jp/faculty/Letters/news/details_13432.html

# by pastandhistories | 2024-02-19 08:58 | Trackback | Comments(0)

story telling (3)

 いよいよExhibiting the Past に掲載された最後の3論文、Wayne J. Urban, 'Reflections of a Textbook Writer', Harry Smaller, 'Making Teacher Union History "Public": The British Columbia (Canada) Teachers' Union, and Its "Online Museum"', Lucia Martinez Moctezuma, 'The Pedagogical Press and the Public Debate about Schooling'  の紹介となります。
 Urban論文は、教育史の教科書の執筆者という視点からアメリカにおける(教科書の)教育史の流れを論じています。筆者が執筆する以前(筆者共同執筆の教科書の刊行は1996年だが、それ以前の1960年代に院生であった時代から筆者は長く教育史の教育に従事していた)の代表的な教科書の内容が(やや批判的に)紹介されています。かつての教科書は教育の進歩という視点にたっていて(つまりホイッグ史観)、1960年代にはそれが修正主義(revisionist)からの批判を受けたが(といってもここでいう修正主義は、それまでの教育は階級区分を助長していたのではという左派的批判)、その双方に批判的な立場が論じられています。そのこと以上に筆者が力点をおいているのは、教科書を使用する教師と生徒の相互的関係。そうした関係を重視することを、筆者は教育のパブリックヒストリーであると考えています。
 Smaller論文はカナダの教員労働組合の歴史をまとめています。カナダには地域的・言語的多様性があるわけで、当然労働運動もそれを反映するものであったわけですが、その中で強い影響力を持つようになったのは、1917年にブリティッシュ・コロンビアで結成されたThe British Columbia Teachers' Union (BCTU)です。その100年を期して書かれた論文。通史的な内容で、労働争議、全国的連携、国際的連携、あるいは女性・人種・子供・環境・平和・第3世界への関心など、活動が多方面に及んだことを、それを支えた機関誌的刊行物を素材に論じています。ここまでは当たり前のことですが、この論文が興味深いのは、現在の活動や組織・運動の歴史は online museum をとおして伝えられているとし、その内容が紹介されていることです。ネットを利用した展示、virtual museum。先行他論文のいくつかがそうした形式をとっていたように、Exhibiting the Past の主要テーマの一つです。
 Moctezuma論文はメキシコの教育史。メキシコの教育が折に触れてフランス、ドイツ、スウェーデン、イギリス、アメリカなど欧米諸国の教育理論の影響を受けてきたこと、その媒体となったのはpedagigical journals として総称される刊行物であったとされ、その内容を基本的に1904~8年を中心に分析しています。主として議論の対象としていることは、ジェンダーがどのように扱われていたのかと(女性教員の扱い)、これとも関係しますが体育教育(当然男子中心で、軍事的色彩もあった)です。もう一つは教科書の問題で、メキシコでは1959年に教科書が無償化されると同時に、1科目1教科書となったが、それ以前の教科書は多様で教師が選択することができたことが指摘されています。ジェンダーの問題や体育教育に関してはかなり具体的に論じられていて、面白く読める論文です。


# by pastandhistories | 2024-02-12 15:37 | Trackback | Comments(0)

story telling (2)

 今日は Exhibiting the Past の第3部 story telling に所収されている二つの論文、Catherine Burke, 'Rocking Horses as Peripheral Objects in Pedagogies of Childhood: An Imagined Exhibition' と Angelo Van Gorp & Frederik Herman, 'On the Trail of the Toucan: A Travelogue about A Peregrination in Educational History' について。
 いずれも物質史料をもちいた教育史。実際にはそうしたモノを集めて展示している博物館を対象としているわけではなく、実物の写真を媒体とした想像上の博物館という設定をもちいた論文です。Burke 論文は教室の隅、あるいは外に置かれていたとされるロッキングホースを映したイングランドとウェールズの10点の史料を媒介(うち1点は教室の見取り図)に、子供たちにどのように利用されているか、教師の関わり方は同化などをどうかなどを解説しています。ポイントは、教育におけるsensoryなもの(子供たちの感覚)の役割を肯定的に評価していることで、ロッキングチェアー・ベンチなどの使用を含めて、子供たちが身体的な運動、リズミックな運動は教育効果を高めるものであり、ロッキングホースはその点で有用な役割を果たしたとされていることです。
 Gorp & Herman 論文は、おもちゃ・遊具の教育における役割をたどっています。前半はベルギーの教育改革者であったOvide Decroy の紹介に充てられていて、彼とその影響を受けた改革論者によって、遊びをもちいた教育の必要が取り入れられるようになったことが説明されています。後半は、そうした教育用のおもちゃ遊具を考案したスイスの Pierre Kuenzi の一連の作品が紹介され、その(国際的にも広がった)受け入れの変遷(盛衰)がたどられています。またそこでは彼の考案したものは、障碍者にも優しいものであったことなどもかなりの重点が置かれて説明されています。結論部ではホイジンガやドゥルーズなどへの言及もありますが、あくまでも補足的なそれほど十分な議論をしているわけではありません。 

 

# by pastandhistories | 2024-02-07 23:38 | Trackback | Comments(0)

story telling (1)

ZOOM研究会への対応などがあって、Exhibiting the past の紹介が滞りましたが、今日から第3部 Story Telling の紹介をします。ここには計7編の論文が集められていて、それぞれに読みやすく紹介しようと思えば、1記事でも終わりますが、ノートをとりながら、若干丁寧に紹介します。今日は最初の2論文、Nelleke Bakker, 'Memories of Harm in Institutions of Care: The Historiography of Institutional Child Abuse from a Comparative Perspective' と Sjaak Braster, 'Exhibiting Teachers' Hand: Storytelling Based on a Private Collection of Engravings' についてとなります。
 Bakker論文は、オランダにおける児童虐待、一つは宗教組織、もう一つは公的機関などにおける out of home での虐待が中心的対象。タイトルに from a Comparative Perspective と添えられているように、そのことをオースとラリアの stolen generations, アメリカ、カナダ、アイルランド、の英語圏、スカンジナヴィア、ドイツ、さらにはベルギーにおける例への言及をまじえて説明しています。 宗教組織では男女が共に性的被害の対象となっていたこと。out of home care には、国の直営的なものと、支援対象とされていた機関によるものがあり、多くは貧困児童や品行が対象であったわけですが、これらでは運営者や仲間による暴力や性的虐待が一般的であったこと、現在ではそれらへの調査が活発化し、被害者の記憶が掘り起こされ、賠償も始まったことを指摘しています。
 Braster 論文は、教室におけるジェスチャー、特に手の使われ方を素材に、教師と生徒の関係を論じています。史料としてもちいられているのは、筆者たちが収集した教室の有様を描いた17世紀以降の図版、それだけでは不十分ということでそれを補うものとして図入り新聞などの印刷物も用いています。教室での教師の手には、上にあげたり、下にさげたり、何かを指していたり、手を広げていたり、拳を握っていたり、あるいはモノを持っていたり、モノの上に置かれていたり、という様々な形態があります。その在り方は男教師と女教師では違う。また生徒の男女比の構成によっても違う、あるいは時代によっても変化したかもしれない。Braster は以上のような問題を丁寧に図表化していて、参考になります。その図表からいろいろな一般的なことを結論付けられそうなのですが、集めることができた史料がそれほど多くはないという点から Braster は性急な結論を控えています。その辺りのことは読者の判断と今後の研究に委ねるということなのでしょう。

# by pastandhistories | 2024-01-31 14:09 | Trackback | Comments(0)

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