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歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

無反省

 「歴史から過去の教訓を学ぶ」ということがくどいほど言われる。「過去の反省」という言葉も繰り返される。だとすると「G7」とか「G8」の一員であるということがメディアで誇らしげに語られ、それが「国民」の間に一般化しているのは、本当は「歴史」への「反省」を欠いたことだ。
 G7を構成する国家は、歴史的にはどのような国家だったのだろう。そのことをわかりやすく示すのは、これらが「義和団事件」を理由に中国に出兵し、軍事干渉を行った国々だということだ。この時、つまり北支事変に軍を送ったのは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、そしてオーストリア=ハンガリー帝国だった。つまり当時の帝国主義列強国家である。北支事変はまさに当時の帝国主義の流れを反映したものだった。ここから第一次世界大戦で解体したオーストリア=ハンガリー帝国が抜け、当時はイギリス連邦を構成する自治国であり、1930年代に正式に独立したカナダが加わったのがG8である、そこからロシアが抜けたのがG7である。つまりG7というのは帝国主義の残滓に過ぎない。だからこそそれぞれが日本も含めて強大な軍事力を維持している。21世紀に入った現在、そのことの一員であることを誇るという意識は、明らかに歴史への反省を欠いている。
 北支事変もそうした流れから生じたものだったが、20世紀初頭に至るまでの帝国主義国家の植民地拡充、世界分割は第一次世界大戦の最大の誘因だった。そのことはいくら「修正」が続くとはいえ、世界史教科書にもなお書かれていることだろう。その反省が国際連盟を作り出し、それが国際連合へと発展した。であるなら日本が取るべき外交政策は、G7に片寄せすることではなく、国際連合に参加している諸国家と平等に連帯することのはずだ。G7とG20との関係について言えば、より民主的なG 20 をより重視していくべきだろう。平和が国是というならそれが当然のことだ。
 G7は近年さかんに中国への敵意を煽っている。まさに歴史は繰り返されつつある。歴史への反省が大事だというなら、どうしてこれほどまで簡単に、歴史の反省が忘れられてしまうのだろうか。

# by pastandhistories | 2022-07-08 10:00 | Trackback | Comments(0)

結果を定めるもの

戦争の帰結を決めるものが軍事能力の差であるとしても、それ以上に大事なのは住民の意志です。多くの帝国主義国家と植民地化された地域住民との戦いが、最終的に植民地住民側の勝利に終わったのはそのためです。「歴史の事実」を語るのならそうなります。
ロシアがウクライナ西部に進駐していないのは、あるいはできないのは、そのためです。逆にウクライナがドンパス、ルハンスク、さらにはクリミアを制圧することはできないでしょう。結果を最終的に定めていくのは、その地域に住む人々の意志だからです。
であるなら、武器支援という軍事的支援は明らかに間違った、そして「非人道的」なものです。武器は建物を破壊し、人を殺戮するものだからです。繰り返し主張します。ウクライナの住民に今与えるべきは、「武器」ではなく「一票です」。
このことは、「平和」や「民主主義」を語るのなら、当たり前すぎることなはずです。

# by pastandhistories | 2022-06-21 05:56 | Trackback | Comments(0)

エスカレーション

「ついに始まってしまった」という暗澹たる気持ちです。ウクライナの住民に与えるべきものは、武器ではなく、一票。当たり前のことです。銃は人を殺すためのもの。一票は一人一人の権利を守るためのものだからです。そんな当たり前のことを、メディアや「評論家」「軍事専門家」はもちろんのこと、「研究者」と称する人もほとんど発言してこなかった。
 クリミアはもちろん、ドネツク、ルハンスクを武力で掌握しようとすれば、生じるのはロシア語使用住民への攻撃。「ジェノサイド」とは言わないまでも、現地で取材していたロイター記者と同じように、多くの民間人が犠牲になるでしょう。そうなればこれらの地域の「住民の安全の確保」を名目として、西部ウクライナへの攻撃を留保していた側も一転して全面的な攻撃に転じる。今度は西部ウクライナでの住民の被害が拡大していくはずです。
 これでいいのでしょうか。このように事態がエスカレートしていくことを助けた「言葉」がそのようなものであったのかということを、言葉を語る人は考えていくべきです。

# by pastandhistories | 2022-06-05 20:46 | Trackback | Comments(0)

国家の多様性と抑圧の停止、平和

 明日メキシコに出発します。何が起こるかわからないので、遺言代わりに批判を恐れずに今日もまた書いておきます。キーワードは多様性です。その例を挙げれば民主主義です。民主主義には絶対的な通則はありません。何よりも歴史的に民主主義が変化してきたことは、誰にでも理解できることですし、現在200ほどの国家があるわけですが、そのそれぞれの国における支配を正当化している民主主義は、制度的には多様です。大統領制度と首相が並立している国家もあれば、一元化している国家もある。世襲制の国王や君主がいても、民主主義を標榜している国も少なくありません。二院制もあれば一院制もある。三権分立をとっている国もあれば、いない国もある。さらには民主主義の根幹とされる選挙制度もまたまちまちです。このように唯一絶対的に正しい民主主義があるわけではありません。
 民主主義がこのように多様なわけですから、それを基盤とするとする国家もまた多様です。単一民族国家もあれば、複数の民族によって構成されている国家もある。というよりこれもまた歴史的に考えれば、単一民族国家というのは歴史的に構築されたものであり、現在の国家を構成している国民は、本来的には多様であると考える方がより正確な認識でしょう。さらには、国家には集権的な国家もあれば、連邦国家もあります。むしろ国家を現在形成している国民の歴史的多様性を認めれば、国家は連邦形態をとります。アメリカも国名に示されているように states の統合体です。ソ連ままた国名通りソヴィエト連邦共和国でした。現在のロシアも共和国の複合体です。ドイツもまた連邦国家です。さらにはイギリス連邦というのもありました。そのことからもわかるように、連邦国家の形態もまた多様です。中心的国家の強制力が一定程度あるものに対して、連邦の構成国の政治的、経済的自由が認められている連邦国家もあります。さらには構成国の軍事権や外交権を認めている連邦国家もあります。
 国家の多様性というのは、現在の中国を例にとってもわかります。中国が単一国家であって、台湾はその一部であることは、国際連合をはじめとしてアメリカ、日本も承認していることです。国際社会での合意です。しかし、台湾政府は地域を実効支配し、政治的、経済的権利ばかりでなく、実質的には外交権、軍事権をも確立しています。つまり中国という国家は、国内における一定の地域のきわめて大きな自治権を認めている国家だということです。こうした在り方もまた国家の一形態です。
 このように考えれば、ウクライナにおける平和を確立する手段が見出せます。それは戦争の誘因となったドネツク、ルガンスクの住民の自治権を完全なものとして認めることです。だからといってそのことはウクライナの領土が喪失することではありません。ウクライナは一つの国としてとどまり、それぞれの地域の自治を尊重するという社会であればいいということです。領土を譲らないというゼレンスキーの顔もたちますし、住民に対する抑圧を防止するのが目的だったというプーチンの顔もたちます。平和を達成するのは、軍備の拡大ではなく、一人一人の住民の意志を尊重することのはずですから、これが現在考えうる戦争停止のための方策の一つです。
 このことはあえて言えば日本をウクライナと同様な戦争の悲惨な現場にする可能性のある台湾問題への考え方とも結びつきます。中国は一つの国です。それは国際社会から認められていることです。しかしその一方で、国内である台湾は1国2制度という考えから、全面的な自治が許容されています。既に50年間にわたって、戦争が生じているわけではありません。将来は緩やかな変化が生じるかもしれませんが、現在はそれでいいわけです。ただ他国からの軍事的支援を借りて独立を目指すとなれば、中国は国内問題としてこれに対応し、悲惨な戦争状態となるでしょう。それを避けることができるのは、情報操作には踊らされないそれぞれの地域に住む人々の互いを敵視しないという良識です。
 今回のウクライナ問題の起因を、独立宣言、ソ連との相互援助条約、軍事援助に求めるのか、それともそれ以前のウクライナのポピュリスト右翼の台頭による東ウクライナの住民弾圧に求めるのかは意見が異なるでしょう。しかし、日本に身近な台湾問題になぞらえながら「平和」を論じるなら、以上のようなことが一つの考え方です。大事なことは戦争を煽ることではなく、なるべく早く平和を確立することです。ということで、批判はあるかもしれませんが、この文章を残しておきます。

# by pastandhistories | 2022-04-24 10:32 | Trackback | Comments(0)

もろもろ

批判を恐れずにあえて書いておきましょう。3月に出した『「小さな歴史」と「大きな歴史」のはざまで』という「小さな」書物のなかで、ホブズボームの「私たちの研究は・・・爆弾工場になることが可能である」という文章を引用して(78頁)歴史の「ネガティヴな実用性」のことを論じておきました。
現在の状況のなかで思うのはそのことです。ウクライナに関しては自称・他称の研究者(歴史研究者もいれば国際政治研究者もいるようですが)長年の研究の成果やあるいはにわか作りの歴史的知識を、新聞、テレビ、さらにはネット空間で披歴しています。しかし、そのなかには「爆弾をさらに用意する」ことを助けるものも少なくはありません。むしろ多数かもしれません。
現在本当に重要なのは、そうした歴史への知識ではなく、ヘイドン・ホワイトが論じたような普通の人々が本来は持ち合わせているはずのプラクティカルな過去認識です。過去に戦争はあった。それは事実だ。しかし、それは論理的にも、倫理的にも現在の社会では決して正当化し得ないものだ。してはいけないものだ。それが普通の人々が持っている過去認識、現実に対してアクチュアルに対応する過去認識、言ってみれば practical past です。戦争の悲惨さを経験したことから生じた常識的な過去理解です。研究者もまたそのことを議論の出発点とすべきです。
そうしたヘイドン・ホワイトの Practical Past 論をブラジルで開催された第2回大会の基本テーマとしたのが、ここでも折に触れて紹介してきた、INTH (Internatinal Network for Theory of History) という国際的な歴史理論研究者の集まりです。今年2月の『思想』に論文が紹介されたベルギーのヘント大学のベルベル・ベベルナルジェが中心となって組織したもので、第1回大会は彼の勤務先であるヘント大学で、第2回大会はブラジルのアウロ・プレトで、第3回大会はストックホルムで開催され、その後はコロナなどで延び延びになっていましたが、第4回大会は4月26日から29日までの予定でメキシコのプエブラで開催されます。テーマは、Media, Mediations and Mediators: (Re)Mediating History in the 21st Century です。
今までもずっと参加していたので、今回はコロナということで迷いがあり、また日本からは大変だろうから remote 参加でもよいと言われたのですが、直接参加することにしました。最終的にはどうなるかはわかりませんが、ベルベルの他にベルベルと共にこの会の実質的な組織者であるカレ・ピヒライネン( Rethinking History の共同編集者)、同じく『思想』で訳出されたシュテファン・ベルガー、イーサン・クラインバーグ( History and Theory の編集者)、ピーター・バークとの共同編著があるマレク・タム、ヘイドン・ホワイトとの対談が『思想』のヘイドン・ホワイト特集号に掲載されたエヴァ・ドマンスカなども直接参加するようです。
しかし、この時期海外へ行くのは大変です。6日間のホテル代より高い帰国前の現地でのPCR検査費の予約支払いなどを始め もろもろの手続きで先週末から忙殺されていました。もし現地感染したらという不安もあるけど、驚いたのは飛行機の予約状況・ほぼ満席。現在では欧米よりも時間的にはやや短いということで、連休を利用して出かける人が多いのかもしれません。

# by pastandhistories | 2022-04-21 09:30 | Trackback | Comments(0)

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