第16回パブリックヒストリー研究会
ただ保苅の議論を取り上げたことについて、参加者から出そうな質問は、(1)なぜ彼の議論がパブリックヒストリーと関係するのか、(2)実証できない事実を歴史実践として受容することは歴史修正主義に道を開くのではないか、という点にありそうなので、その二点についての自分の考えを報告に対するコメントとは別に提示しておきます。
まず(1)としては、「グリンジのカントリーで営まれていた歴史実践は、いつでも、どこでも、誰にでも平等にアクセスできる標準的で教科書のような「歴史」を生み出さないし必要ともしない。そうではなく、特定の人々に、特定の場所で、特定の時間に生じるのが歴史である。またこのように特定の位置を与えられる歴史は、いつでも、どこにでも、誰にでも繰り返し生じうる」(御茶の水書房版、87頁)という保刈の言葉を参照するのがよいでしょう。文字どおりここでは標準的な「歴史」は専門家が生み出し、しばしば学校で教えられるものだが、ではなくて歴史はすべての人がそれぞれのかたちで行っているというパブリックヒストリーが論じている議論との共通点を見いだすことができます。
(2)に関しては、第1章の質疑応答(22~45頁)で保苅は周到に回答しています。彼はこの回答で十分だと考えていたのではと思いますが(だからこそ本の冒頭に置かれた)、おそらく質問者は理解できなかったのではと思います。
あまり図式的(二元論的)な議論は避けるべきですが、端的に言えば近代歴史学は史料に基づく事実と議論を建前として、(とりわけ文字的な)史料を残さなかった人々の過去を「歴史」からは捨象した(したがってそれらは人類学や民俗学という「学問的」分野に押しやられた)。ここまでは多少の批判的意識を持てば気づくことですが、実はそうした「歴史」と並立するかたちで「啓蒙」「文明化」といったことを軸とした支配関係が世界的に普遍化しつつあるし、したことに大きな問題があるわけです。
近代歴史学は帝国主義や植民地支配を外面的には批判してきましたが、たとえばオーストラリアの歴史を論じるにあたっては、圧倒的に取り入れられるべき truth には眼を向けることができない。そうした truth を、近代歴史学は事実ではないとして退けてしまう。 (先住民に対する一方的な迫害などの、あるいは18~19世紀が一方的な植民地拡大の時代であったという) truth を示唆するものは、実はジミー爺さんの語りのほうにあるにも関わらずです。
言語論的転回とパブリックヒストリー
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