人気ブログランキング | 話題のタグを見る


歴史についてこれまで考えてきたことを書いています


by pastandhistories

グローバリゼーションとパブリックヒストリー

 また一か月以上のお休み。授業はとっくに終わったはずなのに、多忙に紛れてしまいました。逆に日々の行動に関しては、毎日日記の素材に書くには困らないほどのスケジュール。もっとも日記を書くのがこのブログの目的ではないので、記事が書けませんでした。その間記事ではなく、約束していた原稿をなんとか仕上げて今日送りました。注コミで400字換算で90枚ほど。下書きはいっきに書いたのですが、いろいろ確認作業に結構時間がかかって結局は締切ギリギリ。締め切りといえば4月に関西で行う報告のレジュメの締め切りがこれも明後日まで。何とか間に合わせなければなりません。
 正直言ってこの時期にこんなに時間に追われるとは思っていなかったので、デ・グルート(ポスターの表記とは違うけど、本人に直接聞いたらこう発言するのがよいとのことでした)の招聘セミナーについても記事をまだ書ていませんでしたが、この会は自画自賛になるけど、期待通りのところがありました。順番を変えて渡辺賢一郎さんに報告の主題として予定されていた映画(『エルミタージュ幻想』)とエルミタージュ美術館の概要を最初に話してもらい、本人がその内容を理解してペーパーの基本的な内容に絞って話をしたので、内容がコンパクトになりわかりやすくなったのではと思います。
 内容的には、作品として表象されたものが、パブリックな場に投げ出された場合、とりわけ現在ではネット空間の多様なオーディアンスが受容者になることがあるわけですが、それがどう理解されるのかという問題です。その場合、とくに二つのことが問題となる。一つは、受容する集団には、専門的な理解力を持つものから、あえていえば自分勝手な表面的な理解(?)しかしない層に至るまでの広がりがあるということ。もう一つは、現在の世界では表象されたものは、基本的にはなおナショナルなオーディアンスを対象とすることが多いけど、たとえば映像的なものには、よりグローバルなオーディアンスが加わるようになっているという問題です。
 映画でも、芸術でも、文学でも、あるいは歴史でも、その作り手の多くは、現在でもなお一定の特権を付与されたインテレクチュアルな社会層です。したがって、当然のことながら専門的技法を多くもちいる。そうした作品の高度の内容は、いわゆるピアレヴューの対象となり、その良し悪しが論じられる。しかし、ネット空間を見ればわかるように、現在では専門的な判断基準に基づく評価はむしろ少数世界にのみしか通用しない。さらには有効性を失いつつある。言語的な規定がある文学や一部の人文学(歴史はその代表例の一つ)とは異なり、映像的な作品はますますグローバルな批評空間に投げ出されている。そうした場でのコメントを拾い上げるかたちで、作品への評価を見直すとどうなるのかが、デ・グルートが議論の素材として示してくれたことです。
 もちろんパブリックな場での評価は(多くの歴史を巡る議論と同様に)、インテレクチュアルな理解からすれば、まったく的外れなものが少なくない。今回素材として取り上げられた『エルミタージュ幻想』が試みた革新的な実験的手法、ロシア史に対する寓意、さらには歴史理解に対する寓意、というものをほとんど理解はしていない。そうしたことを(一面的にネガティヴに考えないなら)どう考えていくべきなのだろうか、というのが問われたことです。
 最後の議論でもそのことが問題とされましたが、一言でいえば、グローバリゼーションの時代におけるパブリックヒストリーをどう考えるかという問題です。この記事には説明不足のところもあるけど、非常に興味深い問題だと自分は考えています。その意味でデ・グルートを招いたのはよかったと思うところがあります。
by pastandhistories | 2016-03-29 21:16 | Trackback | Comments(0)

カテゴリ

全体
未分類

以前の記事

2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 11月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 07月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 10月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 01月

フォロー中のブログ

最新のコメント

恐れ入ります。いつも勉強..
by とくはら at 14:37
『思想』の3月号ですか。..
by 川島祐一 at 23:39
先生は、「「民主主義」擁..
by 伊豆川 at 19:57
先生は、「歴史が科学であ..
by 伊豆川 at 17:18
セミナーで配布・訳読され..
by 伊豆川 at 14:44
私も今回のセミナーに参加..
by 伊豆川 at 18:55

メモ帳

最新のトラックバック

ライフログ

検索

タグ

その他のジャンル

ブログパーツ

最新の記事

ディジトリー
at 2024-03-28 15:45
アームチェアー「パブリックヒ..
at 2024-03-17 21:04
MFSC
at 2024-03-11 10:43
何を問うのか
at 2024-03-01 10:45
待ってろ、辰史
at 2024-02-27 08:46

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧