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『ビッグヒストリー』論の可能性

 デイヴィッド・クリスチャンを中心とした『ビッグヒストリー』の翻訳が出たようです。原書は国際的にもかなり売れているようで、多分「大新聞」の書評欄にも取り上げられて、日本でもかなり売れることになるかもしれません。もっとも広告を見ると、歴史研究者から推薦文はないようです。現在の歴史研究者には、こうした気宇壮大な議論にはとまどいがあるためでしょう。
 このブログでも、いくつかの海外の学会で、ビッグヒストリー論が取り上げられはじめていることを、部分的にですが紹介してきました。自分にも戸惑いがありましたが、いくつか話を聞いていてだんだんとわかったことは、その「ビッグ」な視点には、これまでの歴史学を相対化するという点に関しては、一定の利点があるということです。
 基礎的なことから指摘していくと、まずはこれまでしばしば歴史研究においては、文字の発明で前後で時期を区分し、それ以前の時代を先史時代とする考えがありました。一時期は教科書にも記されていた考え方です。もちろんこの考え方は、非文字社会を、時間のレベルにおいて、さらには同時代の空間に存在していたものでも、「人類」の歴史から排除したものとして批判されることになりました。なによりもこうした考え方は、人類の歴史をせいぜい5000年という、きわめて短かい時期に圧縮してしまうという限定性がありました。さらにはそれは「人間社会」を中心とした、「孤立した」歴史でした。
 ビッグヒストリー論の一つの意味は、こうした制約を超えたことです。人類の誕生だけでなく、その射程を地球の誕生におくことによって、人間の歴史を、地球的環境や、他の生命体との関係から考えていく(そのことのなかには、個々の人間を生来のものとして規定しているDNAが単なる個性的なものの発現を規定しているだけでなく、はるかに幅の広い要素によって形成されてきたものであるという考えも含んでいます)、そうしたことをとおして、人間中心的な歴史観への再考を促したことです。そしてその延長として、人類が住む地球自体もきわめて微小な相対的なものとして考えていく、その究極として「ビッグバン以来の歴史」ということが措定されているわけです。
 おそらくこうした歴史観は、人間中心的な歴史観すら批判的に考えていくわけですから、ましてや国家中心的な・自民族中心的な歴史観というものが如何におかしなものかを示していく、その根拠となっていくでしょう。その意味では肯定的な要素を内在させていると考えることもできます。デイヴィッド・クリスチャンはもともとはロシア史研究者ですが、はやくからこうした問題に着目し、その先駆的な主唱者となりました。彼の簡潔な主張は、その講演の内容としてネットでも見ることができます(随分と聴衆が集まっていて、またアクセス数もきわめて多いようです)。ただその内容に関しては、結局は人間中心的な、進化論的な理解にむしろとどまっているという感じが自分にはします。その点から見ても、ビッグヒストリー論についての議論が深まるのは、これからだと思います。
by pastandhistories | 2016-11-16 10:51 | Trackback | Comments(0)
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