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関係史の問題

 連休中で少し時間が取れるので、AAWHに参加したさいに気づいたことは、いくつか続けて書いてみました。もう一つ気づいたことは、今回の会では会の性格上随分と関係史的な研究の発表が多かったことです。関係史的な視点は一国中心的なものより多くの利点、とりわけ multi-cultural な、あるいは multi-lingual な広がりを持つという点で歴史研究の今後の方向となることは事実ですが、今回気になったのはアジア研究が関係史的な視点から行われることによって、逆にアジアをwesternize したとされる欧米的な枠組みからの視点に回帰する部分があったことです。
 非西欧的な地域に対する日本での関心は、1950年代から1960年代の民族解放運動や第三世界論に対応して拡大し、1970年代から当時の若手研究者によってそうした地域への本格的な研究が進行しますが、当時の研究を推し進めた問題意識は、欧米における研究のフォロウではなく、研究対象地域に対する内在的な視点の強調でした。もちろんこうした地域の研究は、とりわけ16世紀以降は地域に研究を特化しては行えないということは事実かもしれませんが、世界史的な視点から関係史を強調すると、研究が再び欧米を基軸にしたものに回帰していくという側面もあります。
 欧米への留学経験、それに支えられた十分な英語能力による国際会議での発表、それ自体は学問的な発展として肯定してよいのですが、その中から抜け落ちてくるものへの批判的視点はやはり必要かもしれません。ないものねだりの批判かもしれませんが、かつてがそうであったようにそれぞれの参加者が研究している地域のネイティヴラングエッジで報告し、それが各々の参加者の使用言語に翻訳されれば、報告や議論の内容には別の結果が生じたかもしれません。というより生じたはずです。過去の説明は現在のディスコースのあり方に大きく作用されるということです。英語が「国際会議」や「研究」の公式言語として用いられれば、そのことは当然議論の内容を規定します。
 少し原理的な批判ですが、これもまた原理的に言えば「英語」を共通のものとして用いれば用いるほど、そうしたディスコース空間に対する批判的な意識は必要になるはずです。その点が今回のAAWHでは少し気になりました。
by pastandhistories | 2013-10-07 12:19 | Trackback | Comments(0)

バークとホワイト

 『思想』のピータ・バーク小特集が出ました。コンパクトだけどわかりやすい。バークのような様々なトピックを論じている人物を取り上げる場合は、それぞれのトピックと関連付けるより、掲載されたような一般的な視点からアプローチするのがいいのかもしれません。自分としては初めからそうした意図があったわけでありませんが、ホワイトにつづいてバークに関してもこうした取り上げ方をしてくれて、『思想』には感謝しています。
 これと7月の会でプロジェクトはほぼ終了ということになりますが、時期は異なるとはいえホワイトとバークをあわせて招いたことに時々質問を受けることがあります。しかし、この組み合わせはそれほどおかしなものではありません。それを示すのは、『メタヒストリー』刊行40年を記念して計画されたRethinking History にバークが寄稿していることでしょう。『思想』から小特集の話があった時、この原稿を訳せればと考えたのですが少し刊行時期がずれほんの数日前にバークから送られてきました。形式的にはPDF版なので、ネットで見ることがで出来るかもしれません。
 今回草光俊雄さんが書かれているように、あるいは『社会学と歴史学』のあとがきで森岡敬一郎さんが書いているように、バークの相対主義の前提にあるのは、ある種の個人主義です。その点はホワイトの相対主義の前提も同様です。ホワイトが批判しているのは、「日本人には日本人の歴史があり、中国人には中国人の歴史がある」というような相対主義です。何故ならそれは集団を前提とする相対主義でしかないからです。そこでは個は集団に帰属させられ、認識の主体とは位置づけられていません。近代において形成された学問的な歴史を彼が批判するのも、そこに集団化されたイデオロギーを見出すからです。二人の違いは、ここからバークが膨大な知的空間に身を置き、あくまでもその延長に身を置いているのに対し、ホワイトは同じような膨大な知的空間に身を置きながら、エシカルな要素を重視しているからでしょう(もちろんこのことはバークはエシカルではないということを意味しているわけではありません)。
 実は現在(10月4日)ブラジルでホワイトの『メタヒストリー』40年をめぐる会合がホワイト自身も参加して行われています。この夏ゲントやボーフムであった人達が随分と参加していて、自分も行きたかったのですが、日程や距離の問題で断念しました。体も持たないし。その意味ではホワイトの元気さには本当に驚かされます。それを見習って自分も仕事をして行きましょう。帰国してすぐに授業、会議、書類と例によって慌ただしい日が続いたけど、やっと落ち着きました。小さな会での報告の予定もあるので、休んでいた国際文化史学会の記事を続きを明日から書きます。
by pastandhistories | 2013-10-03 17:46 | Trackback | Comments(0)

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