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ロジックとゲバルト

 大学では最近クリティカルシンキングという議論が話題となることがある。授業の目的の一つとして、議論されることが多い。欧米の大学での試みを取り入れようということらしい。しかし、欧米での流行だからそれを導入するというのでは、まさにアンクリティカルな思考だろう。といっても、物を考えることを生業とするのなら、クリティカルな思考は大事。現状肯定的な思考はどうしても、イロジカルなものとなりがちだからである。
 その大きな理由は、現状は基本的にはゲバルトによって支えられているからである。欧米中心的な現在の世界のあり方は、歴史的には数多くのゲバルトによって生み出されてきた。したがって、現状肯定的な多くの思想もまた、その背景にあるのはゲバルトが生み出した力関係である。したがって、いくら非論理的であっても、その存在は許容されている。それどころか、しばしば、多数派として勝者の地位にある。しかし、いくら勝者の地位にあるからと言って、純粋に論理的に考えることを生涯の道として選んだのなら、そうした場に身を寄せることは虚しい。
 専攻の選択の時に、結局は西洋史を選んだのはそんな理由からだったかもしれない。ここでも何度か書いてきたように、実証というレベルであれば、日本史の方が歴史研究者の進むべき道であり、さらには人文学を科学として考えるならば、歴史学より社会学を選ぶのが、より確かな道であることを否定することは難しい(絶対に否定しえないというわけではないが)。しかし、自分が欧米の研究を選んだのは、圧倒的なゲバルトに裏付けられた欧米の思考的枠組みを批判し、解体していくためには(それは近代以降の日本を批判し、解体することにもなるはずだが)、欧米に内在化してそれをロジカルに批判する必要があるだろうと考えたから。
 歴史批判にもそうした問題がある。歴史批判には大別すると二つの立場がある。外在的批判と内在的批判。外在的批判というのは、たとえばテキスト論・言語論のような議論を媒介として、歴史哲学的な立場から歴史学や歴史叙述を批判するものである。厳密な批判も多く、議論としては優れているものもある。しかし、この批判は実際の歴史家からはほとんど無視されている。対して内在的批判というのは、具体的な歴史研究や歴史叙述をとおしての批判ということになる。自らを同じ立場においての批判ということになる。
 この両者では内在的批判の方が、歴史家に対しては有効性があるかもしれない。それは欧米に対する批判としても、内在的批判のほうがそれを論理的に批判しうる可能性を持つのと似ている。しかし、残念ながらその可能性は実際には限りなく小さい。それは歴史にしても、欧米にしても、それらがある種の暴力的関係によって生み出され、そして支えられているものだからである。しかし、だからこそ、それを内部から論理的にも、実際的にも打ち破っていく方向性を考えていくことは「楽しい」。
(このブログはなるべくやさしい文体を心がけていますが、時々文章の流れで別人のものみたいな文体になってしまうことがあります。今日はそんな感じかな)。

by pastandhistories | 2017-09-26 16:55 | Trackback | Comments(0)

デジタライゼーションの30年間

 デジタル技術の発達について、自分の経験にもとづいて前回の記事に少し補足して書いておきます。歴史研究者、とりわけ西洋史研究者は、元号表記に好意的ではないけれど、現在のように世代的な変化を示す場合は多少便利なところもあります。平成も来年でおしまい。30年が一つの区切り。
 ではこの30年で起きた大きな変化、それはパソコン使用の急速な拡大です。オアシスの親指ソフトと言っても、もう若い研究者は何の事だかわからないかもしれません。同じように88シリーズも。しかしすぐに消え去るこれらが出現したのは今からわずか30年前。平成元年の頃の話です。この年は、自分が地方の国立大学から、東京の私立大学へ移った年。経済的にはバブルがつぶれ始めた年。
 実は自分は地方の国立大学でずっと(教授会の選挙で選ばれて)学部の予算委員をしていました。予算の分配案の作成と特別予算の申請が主たる仕事。何か特別に予算を請求する名目はないかということで考えたのが、教員定員48人の文系学部の教員の全研究室にパソコンを配備するという文部省への特別予算請求。当時1台100万円で総額4800万、当時学部全体に配布される予算が、事務経費など一切を含めて年間4000万円だったので、それを超える額。したがって1年に16台づつ配置して、3年で計画完了というもの。これが確か平成63年の話です。
 普通はこうした予算請求は絶対に通らない。たかをくくっていたところ、なんとモデルケースとして満額承認。それからが大変。今では考えられないけど、最初の年度の16台の使用者が集められない。使ったことがないから。あるいはそんなものは不要と言い張る人も多かったから。仕方がないので、経済学科を中心に本当に何とか頼み込んで、やっと使用者を確保しました。30年前は、研究者とパソコンの関係は、そうした状況であったわけです。
 さらに予算付与につけられた条件にも困りました。何かデータベースを作成するということだったからです。ところが送られてきたすでに全国の大学の文系学部で作られているデータベースの一覧もまた今では考えられないもの。全部で200程度。それも初歩的な文献目録も含めて。当時のデジタル技術の利用状況は本当にそんな程度だったわけです。翻訳技術の発展はそれほど遠くない将来に、それぞれの母国語でのコミュニケーションを可能にするだろうと書いたのも、そうした変化の急速さを本当に毎年のように経験してきたからです。
 このことに関連して思い出すもう一つのことは、コピー技術の発達。院生時代に研究室に当時100万円程度のジェット噴射式のコピーが入った時のことです。たまたま自分が毎日使用していたマイクロリーダーの横に置かれた。ということで、なぜか教員の前でメーカーの技術者とともに、自分が最初のコピーをトライアルさせられました。その時にある教員が発言したことは今でも忘れられません。「これで学生はますます勉強しなくなりますね」。文献や資料の筆写が基本的な勉強の一つと考えられていたからです。もちろんより重要なことは、処理する情報量の拡大。いまどき雑誌論文を筆写することなどありえないでしょう。文書館に行っても、デジカメではいおしまいです。あるいはオンライン化で文書館に行く必要もかなり減ってきました。
 今日はここまでにしておきます。考えなければならない問題は山ほどあるのですが。 

by pastandhistories | 2017-09-19 22:58 | Trackback | Comments(0)

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